市民の眼差し
「──お願い、誰か、誰か助けて!」
その悲鳴は、工業地帯からわずか数キロ離れたベルリン郊外の住宅街で上がった。
避難警報が突然、鳴り出した。けれど当然、虚を突かれた人々の対応が間に合うわけがなかった。
ミヒャエラ・コルベン、24歳、保育士も逃げ遅れた一人だ。
強くはないが優しい。恋人と飼い猫と静かに暮らすのが夢。
彼女は避難誘導を受けながらも、3歳児を抱えて立ち尽くしていた。建物の崩壊を恐れて逃げられなくなった老人を、咄嗟に助けようとして戻ったのだ。
爆音。ビルの上層が歪む。空に黒く歪んだ筋が走る。
それはエイリアンだ──いや、正確にはその兵器だ。
有機的な曲線で構成された装置が、地上に投下された直後から根を張るように拡張し始めていた。
「爆弾だぁっ……!」
誰かがそう叫んだ。
形は木の実のように丸く、だが開いた“殻”の内側には人間の脳に似た構造体が浮かんでいた。人類の文明では解析不可能な構造。そして、それが今、カチリと音を立てる。
タイマーが動き出した。
「さ、3分……?」
周囲の市民たちが悲鳴を上げながら逃げる。
ミヒャエラは子どもを抱えたまま、ひとまず後退。だが彼女の視線は都市の北端にある建物の上に立つ“何か”を捉えた。
赤いコート。銀の髪。黒いタイツ。白のシャツ。
静かに佇む姿は、まるで人間離れした彫刻のようだった。
「……あれは……女の子?」
そう。その女の子の名は、ステルン・シュナイダー。
人類が生み出した7人の“超人”のうちの一人。
「あの子……私たちをも持ってるの……?」
ミヒャエラは呟いた。
彼女はまだ知らない。その人物が本当に「人間」なのかどうかも。けれど、本能でわかっていた。
あの視線は、決して市民を見下ろしていない。
高い場所から見つめているだけで、目線の高さは──誰よりも人間だった。
遠くで悲鳴。
倒壊した家屋。泣き叫ぶ子ども。必死で携帯を掲げる記者。
「この状況は……ベルリン市民への攻撃としか……!」
中継映像は世界中に配信されている。
世界の指導者たちは、黙っていない。だが反撃の手段は限られている。既に3基のミサイルは発射され、2基が失敗、カードキーの所在も不明。カードキーの所在が判明している残る2基のうちの1基が、ドイツのこの都市にある。
エイリアン側は残り1基のミサイルが撃たれれば、ゲームが終わってしまう。
それを阻止するために、街を人質にすることを思いついたのだ。
その人質作戦のために最も残虐で、最も戦略的な個体が選ばれていた。
ネームドエイリアン──ゼクス=マギィア。
そのゼクス=マギィアが走者の妨害のために考えた作戦の名前は「思考の牢獄作戦」。
選択肢を与えるが、いずれも破滅に至る。
詳細は不明だが走者の心理を追い詰め、思考と判断の自由を奪う。
そして今、ゼクス=マギィアは上空の巨大ホログラムに姿を現す。
逆三角形の頭部、虹色に揺らめく六本の「選択の剣」が背後に漂う。
「さて、英雄よ。人間を救うという名目の下に、どれほどの人間を見殺しにするのか? 君に与える選択肢はたったひとつ──“地獄”だ。」
無機質な音声が鳴り響く。
ミヒャエラは赤ん坊を抱いたまま、涙をこぼす。
「なに、なに……なんなのあれ、お願いだから、どうか誰も死なないで……!」
その願いは届くのか?
ステルン・シュナイダーの赤い瞳がわずかに揺れる。
そして、彼女の口元が、ひと筋動く。
──判断は済んだ。
あの時、中庭で見た“花”のように、生命は守られねばならない。
選択の時が来た。
なんかポイントが大量に入ってると思ったら、多分これ、だいぶ前に「10ポイント目指してるから評価をお願いします。」とか、あとがきでお願いしたのを優しい読者が、評価してくれたんじゃないかと言うのに今気づいた。
お願いしてからかなり時間が空いてるもので、すっかり忘れてました。
ポイントのお礼が遅れて申し訳ない。
そして評価していただいた方、ありがとう!
これからも頑張って書きます。(感謝)
それはそうと次は30ポイントを目指します!
よろしくお願いします!




