表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/119

ありがとう

特殊施設《サザーランド気象観測センター》の司令室に、低く重たい沈黙が落ちた。


モニターには、発射された核ミサイルの軌道が鮮やかな青で描かれていた。その美しさは、どこか皮肉めいていた。人類の反撃が始まった――だがその代償は、あまりに大きかった。


所長、ジョージ博士は震える手でヘッドセットを外し、無言で目を閉じた。彼の手には、未だ温もりを帯びたままのカードキーが握られていた。


「……ラッシュ・スウィフト、任務完了。発射確認……しかし、生命反応……消失を確認しました」


オペレーターの報告が、まるで弔いの鐘のように司令室に響き渡った。


ヴェルナー博士は数秒の沈黙の後、深く、深く息を吐いた。壁に掛けられた仲間たちとの写真が目に入り、その中央で笑うラッシュの姿が彼の胸を締め付けた。


「お前は……最後まで“ヒーロー”だったよ」


博士は誰にともなくそう呟き、司令室の全員が静かに頭を垂れた。


ラッシュ・スウィフト。知的障害を持ちながらも、誰よりも真っ直ぐに憧れを貫いた男。子どもじみた言葉しか使えない彼は、それでも最大級の献身と勇気でこの世界を守った。


博士は指先で、机の上に置かれた写真立てを撫でた。写真には、ラッシュが職員たちに囲まれて笑っている姿が映っていた。そこに言葉は要らなかった。


その時、管制室の壁のモニターが切り替わる。新たな指令通信が、次の戦地から届いた。


「こちらベルリン。北欧方面からエイリアン軍団の侵攻を確認。すでにライン川沿いで市街戦が発生。防衛ラインの突破を許した模様。ランナーズ、出撃準備を……」


スクリーンには、冷静沈着な顔立ちの女性が映し出された。灰色の瞳が鋭く周囲を見渡し、軍服風のジャケットを羽織ったその姿には一切の無駄がなかった。


――ステルン・シュナイダー。ドイツに配属された“ランナーズ7”の一人であり、冷徹なまでの戦術思考と鋼鉄の意志を持つ女戦士。


「……ラッシュ。あなたの意志、確かに受け取ったわ」


モニター越しに呟くように言った彼女の目には、微かに悼みの色が滲んでいた。


その背後には、すでに戦闘態勢に入ったドイツ連邦軍の兵士たちが映る。北の空は赤く染まり、無数の降下ポッドが夜空に咲く花のように開いていた。


バトンは、次の走者へと確かに渡された。


そして“ランナーズ7”の戦いは、まだ終わらない。

続きが気になる方は、ブックマークをお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ