英雄が残した空白
「……発射確認!ターゲット座標へ向けて進行中!」
歓声が、作戦統括司令部中に響き渡った。
作戦成功。人類が誇る最終兵器――対侵略用戦略核ミサイルが、ついに打ち上げられた。
その白い軌道は、まるで希望そのもののように、暗い空を切り裂いていた。
「やった……!やったぞ!」
中央指令室では、スタッフが互いに手を取り合い、泣きながら喜びの声をあげていた。
モニターには、発射シークエンスの最終ログが表示され続ける。異常なし。
確実に、目標地点へと飛翔中だ。
「――ラッシュ・スウィフト。あいつが時間を稼いでくれなければ、間に合わなかった」
高官用の官席に座っていたアレクサンドル准将は、静かに帽子を取り胸に当てた。
言葉にならない思いが、彼の中を駆け巡る。
その時、通信班から一本の報告が入る。
「より――特殊施設《サザーランド気象観測センター》最終報告です」
司令部の空気が一変する。
歓声が止み、皆が息を飲んだ。
「……内容を読め」
アレクサンドルの声が低く響いた。
オペレーターが震える声で報告を読み上げる。
「ラッシュ・スウィフト、最終任務において敵ネームドエイリアン・アシミル=エクスの超高出力攻撃を受け……殉職。最期の瞬間まで施設と我々を守りきり、ミサイル発射を成功させたとのことです」
静寂。
誰も言葉を発せなかった。
まるで時間が止まったかのような沈黙が、司令部全体を包む。
「……あいつは、間違いなく、ヒーローだった」
誰かが、呟いた。
その言葉に、他の者たちもゆっくりと頷く。
ラッシュ・スウィフト。
言葉が不自由で、知的障害を抱え、複雑な命令を理解することも難しい少年。
それでも彼は、ただ一つの想いだけで戦い抜いた。
「“僕、ヒーロー”……って、ずっと言ってたよな」
涙を堪えながら呟く通信士の目に、かつてラッシュが笑顔で叫んだ映像がよぎる。
どんなに傷ついても、苦しんでも、彼は一度も弱音を吐かなかった。
言葉では語れない分、行動で全てを証明した。
そしてその代償に――命を捧げた。
モニターに、現在のミサイル軌道が表示される。
完璧な角度で上昇を続けていた。
その白い軌道の先に、ラッシュが遺した“想い”があった。
「記録班、ただちにラッシュ・スウィフトの戦闘記録を英雄記録簿に登録しろ。最高機密として、後世に残す」
アレクサンドル准将の声は、震えていなかった。だが、その拳はわずかに握られていた。
「……彼の勇気がなければ、我々は滅んでいた。忘れるな。あの少年こそ、我々の……真のヒーローだ」
誰一人として、否定する者はいなかった。
英雄の名は、叫ばれることなく静かに語られた。
だがその存在は、全ての者の胸に焼き付き、
この日、地球の未来は、一人の“ヒーロー”によって繋ぎ止められたのだった。
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