防人(さきもり)の叫び
──重力を無視したかのような閃光が、空間を割った。
「施設復旧まで……あと十五秒ですッ!」
司令塔から響いた緊迫した報告に、特殊施設《サザーランド気象観測センター》の所長、ジョージ博士は歯を食いしばった。外では、巨大なエネルギー波が空を焼き、空間を歪ませている。
それはネームドエイリアン「アシミル=エクス」が放った破壊のビームだった。
「……っ、なんとしても今、止めねばならんと判断したか……!」
その照準は、地下施設の発射設備そのもの。明らかに復旧の兆しを察し、阻止に出たのだ。秒単位の攻防、そして、最後の盾として立ちはだかっていたのは――
「ボク……ヒーロー!!」
咆哮とも言える絶叫とともに、ラッシュ・スウィフトはその巨体をビームの前に投げ出していた。
通常の兵士であれば、接触した瞬間に蒸発していたであろうエネルギー波。だがラッシュは、“僕が世界を救う(アイ・アム・ヒーロー)”と名付けた固有能力により、常識を超えた超強化を身に宿していた。
だがそれでも──このビームは、彼にとって過去最大の脅威だった。
「ヴ……ヴェルナー……しょちょ……ボク……まだ、いるよ……」
その言葉はかすれていた。両膝をつき、巨体が小刻みに震える。皮膚は焼けただれ、骨が露出し、蒸気のような血煙をまとっている。それでも、ラッシュは決して退かなかった。
「ラッシュ……! もう、もういい……!」
ヴェルナー博士は叫んだ。心が引き裂かれそうだった。知的に幼く、ただ“ヒーロー”になりたかった少年に、これ以上の犠牲を強いたくなかった。
だが──
「ボク、ヒーロー!!」
再び叫んだ。力強く。誰にも止められない意志だった。
かつてラッシュは言葉をうまく操れなかった。自分の気持ちをうまく伝えられなかった。だが、「ヒーロー」という言葉だけは、いつも確かに、彼の全てを語っていた。
――みんなを守りたい。
――笑ってほしい。
――大好きなテレビの中のハルクみたいに。
だから今、彼は一歩も退かない。
ネームドエイリアン、アシミル=エクスは目を細めた。その視線には、はじめて微かな尊敬の色があった。
『なぜ倒れない。なぜ動ける』
それが知的生命体であれば当然抱く問いだった。ラッシュは答えない。ただ叫ぶ。
「ボク、ヒーロー!!」
足を踏みしめ、両手でビームの奔流を掴むように受け止める。熱で爪が剥がれ、関節が砕けても、それでも耐え続けた。
そして──カウントダウンが始まる。
10──
施設が軋む。
9──
地面に大きな影が揺れる。
8──
エイリアンたちの通信が混乱を極める。
7──
アシミル=エクスが、焦燥をにじませて叫ぶ。
6──
「止めろ……まだ、間に合う……!」
5──
だが、もう誰にも止められない。
4──
その時、デルタの視界に再び飛び込んだもの。
3──
――立ち上がる、ラッシュの巨体。
2──
焼けただれ、崩れそうな体を奮い立たせ、
1──
拳を振り上げる。
「――僕、ヒーロー!」
その言葉と共に、彼は最後の一撃を地面に叩きつけた。
衝撃波がデルタのビームを相殺し、地中の反応炉から白銀の閃光が走る。
「設備、復旧完了ッ!!」
通信士の叫びが響いた。施設の天井が震え、地下から巨大な轟音が走る。
「発射装置、起動!」
「ミサイル、上昇!」
――ラッシュが防ぎ続けたその先で、ついに、地球を守るための第一の核ミサイルが空を裂いて飛び立った。
爆音。揺れる島。けたたましいセンサー音の中で、ラッシュはゆっくりと膝をつき──その場に倒れた。
彼の唇が、ひび割れた血の中で動いた。
「ボク……ヒーロー……」
彼の想いは、空を駆ける白い軌跡とともに、遥か彼方へと昇っていった。
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