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崩れかけた防衛線

特殊施設《サザーランド気象観測センター》の屋外広場は、崩れた鉄骨と倒れたエイリアンの肉体で埋め尽くされていた。ラッシュ・スウィフトはその中心で、なおも咆哮を上げるように「僕、ヒーロー!」と叫び、両拳を振るい続けていた。


倒れたエイリアンの屍が山のように積み重なり、施設の正面ゲートは既に視認すら困難になっていた。ラッシュの背は血と埃にまみれながらも、なおも異様な存在感を放っていた。だが、その背中には、ネームドエイリアン――アシミル=エクスが放った光槍による深々と抉られた傷が刻まれている。


「――ヒューマン。傷を負ってなお、進むか」


煙の奥から姿を現したのは、金属質の複眼をもつアシミル=エクスだった。身体の至る箇所に流体的な膜を纏い、先ほどまでラッシュに殴り飛ばされた痕跡を再生しつつあった。彼の周囲には、再び集結した十数体のシリアルナンバー付きエイリアンたち。先ほどとは異なり、より重装備で、より統制された動きでラッシュを取り囲む。


「彼はまだ…戦えるのか?」


施設内の制御室では、所長のジョージ・アンダーセンがモニター越しに拳を握っていた。操作パネルのランプはいくつか復旧の兆しを見せていたが、まだ「LAUNCH READY」の表示は赤のままだ。


「この子は強いんだ。戦う意味も、命令の意味も、全部が理解できているわけじゃない。けれど――彼は、自分の目で“助けなきゃいけない人”を見ている。それだけで、十分なんだ…」


ジョージは言葉を失い、画面を見つめる。


外では、ラッシュがよろめきながら立ち上がる。視界はぼやけ、膝は震え、体中の筋肉が悲鳴をあげていた。それでも彼は、満身創痍の体を支えながら、エイリアンたちの方へ一歩踏み出す。


「……ボク……ヒーロー……!」


かすれた声。しかし、その声は確かに戦場に響いた。


シリアルナンバーのエイリアンたちは、隊列を整えたまま一斉に突撃を開始した。ラッシュは拳を構えた。もはやその動きに迷いはない。無垢な意志が肉体を突き動かしている。


「“ヒーロー”とは、定義不能な概念……だが、奴のそれは、なかなかに興味深い」


アシミル=エクスはそう呟くと、再び自らの長槍を構えた。


戦場は再び嵐となる。ラッシュの拳が一体、また一体とエイリアンをなぎ倒すたび、残骸は宙に舞い、視界を遮る瓦礫と化す。だが、そこに再び罠があった。


──視界を遮る残骸の壁。


ラッシュがシリアルナンバーエイリアンの一体を地面に叩きつけた瞬間、背後から突如として伸びる槍。死角だった。


「っ……!」


「バイタル低下!出血量が尋常じゃありません!」


制御室でオペレーターが叫ぶ。


アシミル=エクスの、肋骨部分が変形して伸びた槍の形状をした何かが、ラッシュの腹部を貫いた。肉が裂け、体液が飛び散る。地面に膝をつくラッシュ。それでも彼は、呻き声ひとつあげず、顔をあげた。


「……ヒーロー……」


彼の目には、まだ炎が灯っていた。


ジョージは、震える声でモニターに手を伸ばす。


「ラッシュ……もう、いいんだ。君は……」


だが、画面の中の少年は、立ち上がろうとしていた。倒れそうになりながら、彼は拳を作り、再び戦場へ向き直る。


「……ヒーロー!」


ラッシュの叫びが、また戦場に響いた。

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