英雄に群がる影
――キングジョージ島の南岸、冷たい海風がミサイル発射施設の壁を叩いていた。厚いコンクリートに守られた管制室の中では、モニター越しに映る戦場の映像が息を呑ませる。
「ラッシュ、無茶はするなよ……!」
所長の声がスピーカーから漏れた。だが、戦場に立つ少年にその意味は届かない。いや、届いていたとしても、彼の中では別の言葉に変換されていただろう。
「……僕、ヒーロー!」
再びラッシュは雄叫びのようにそう叫び、血に濡れた拳を振るった。ネームドエイリアン〈アシミル〉の分厚い鎧に叩き込まれた拳が、まるで戦車の砲弾のような衝撃波を発し、アシミルを十数メートル後退させる。
だが、ラッシュは気づいていない。――既に、彼の両腕には無数の裂傷が走っていた。膝の軟骨は音を立てて擦り減り、背中には先ほどのビームの余熱による火傷が残る。超強化された肉体ですら、あまりに激しい連戦には限界がある。
「兵は展開せよ!奴の動きは単調だ!」
アシミルが通信を飛ばすと、背後にいた銀の鎧を着た無数のエイリアンが、一斉にラッシュへ飛びかかった。
「僕、ヒーロー……!」
そう呟くと同時に、ラッシュの全身が爆発的に跳ね上がる。筋肉が隆起し、皮膚が硬質化する。無数のエイリアンを同時に叩き伏せ、コンクリートを抉る。
しかしその隙――アシミルが手にしていた漆黒の剣がラッシュの脇腹を裂いた。
鮮血が飛び散る。ラッシュの身体がよろめく。
「ラッシュ――っ!!」
所長の叫びがモニター越しに響くが、ラッシュは振り返らない。代わりに、崩れ落ちそうな膝に力を込め、もう一歩、前へ出た。
(痛い。怖い……)
ラッシュはその思考を、言葉にはできない。だが、彼の心の奥には確かなものがあった。
――この場所には、自分を笑わなかった人たちがいる。
――ご飯をくれた人がいる。頭を撫でてくれた人がいる。
「……ヒーロー!」
まるで自分に言い聞かせるように、ラッシュは再び拳を振るう。アシミルの顎を打ち抜き、周囲のエイリアンを巻き込んで大地に叩きつけた。
「所長、ラッシュの戦闘能力が限界値を超えています!このままでは――」
「……耐えろ、ラッシュ。あと数分で、復旧できる……!」
その声に応えるように、傷だらけの体でラッシュは立ち上がった。剥き出しになった骨が見えている。それでも彼は、瞳だけは曇らせなかった。
アシミルが立ち上がる。鎧に亀裂が走り、額から青い血が滴っている。だが、彼の顔には恐れではなく、興味が浮かんでいた。
「なるほど。これが人類の“本気”か……だが、そろそろ仕留めねばなるまい」
無数のエイリアンが周囲を取り囲む。ラッシュの視界が揺れる。だが、朦朧とする意識の中、脳裏に浮かぶのは、あの画面の中で大暴れしていた緑の巨人。
――そう、あれが「ヒーロー」だった。
自分も、なれると信じた。
(僕、ヒーロー……!)
心の叫び声とともに、ラッシュは最後の気力を振り絞って走り出した。
その一歩が、次の奇跡への始まりになることを、まだ誰も知らない。
異世界おじさんの2期は、まだかな~。
おじさんがエルフとのフラグを、立ててはへし折り、立ててはへし折ってエルフが可哀想なんだけど
冷静に読んでるとエルフも大概なんだよねw




