アイ・アム・ヒーロー vs アシミル=エクス
――風が、裂ける。
その音は雷鳴にも似て、地を這う者には届かぬ高空の振動だった。
空を割って舞い降りる四枚の刃、それはまるで死の翼。
アシミル=エクスは、圧縮した空気を高速でぶつけることで、目に見えぬ衝撃波の槍を無数に生み出していた。
「音速の雨」と呼ばれるこの技は、シリアルナンバー個体ですら回避不能で、標的は瞬時にミンチになる。
その一撃を、ラッシュ・スウィフトは正面から受け止めていた。
「ぼく……ヒーロー!!」
叫びと共に、ラッシュの肉体が膨張する。
筋繊維が裂けて、さらに再構築され、膨大な質量とともに身長が伸びていく。
既に2.5メートル。重量は常人の十倍以上。
頬は紅潮し、血管は表皮の下で怒り狂った蛇のように脈打っていた。
それは「超人」ではなく、まさに「怪物」。
能力名:
『僕が世界を救う(アイ・アム・ヒーロー)』
ただの身体強化ではない。常識外れの「破壊耐性」「回復能力」「膂力」が組み合わさった、人類が作り得た最強の肉体。
メルカ・ドリオの刃が空気を切り裂きながら突き刺さる――が、
ラッシュの腕はそれを捉えた。いや、叩き落とした。
「……っ!」
メルカ・ドリオの身体が空中でバランスを崩す。
その瞬間、ラッシュの足が雪原を砕いて踏み込んだ。
超重量の質量が一歩で空間を押しつぶす。
「対象、異常。行動反応、計測不能……!」
アシミル=エクスれようと翼を広げる――その直前。
「ぼく、ヒーロー!!!」
咆哮とともに、ラッシュの拳が空を駆けた。
その速度は、もはや視認不能。
拳が空気を歪め、圧倒的な重力が一点に集中するように空が“沈んだ”。
アシミル=エクスが構築した空中領域が崩壊する。
「が……ッ!?」
ついに命中した一撃。
ネームドエイリアンの肉体が斜めに吹き飛び、空中で回転しながら雪原に叩きつけられた。
「やった!……まさか、倒したのか!?」
所長室のモニター越しに誰かが叫んだ。
職員たちは拍手さえしかけた。
だが。
雪煙の中から、ゆっくりと、ゆっくりと立ち上がる黒い影。
その全身は損傷し、片翼は吹き飛び、胴体には亀裂が入っていた。
だが、まだ、戦える。
そして、奴は呟いた。
「ふむ。ならば……我も、“名の力”を用いよう」
ネームドエイリアン、アシミル=エクスの背部が展開する。
四枚の刃が空を裂く。
その間に、生体金属で構成された装置が露出する。
「なにか来るぞ!」
警報が鳴る。雪原に高周波が満ち始める。
「《圧縮昇天風》」
それは、“上空に空気を吸い上げる”能力だった。
風圧が一瞬で反転し、ラッシュの巨体が浮き上がる。
「……ッ!?」
風に翻弄される巨体。暴風に巻かれながら、ラッシュは宙に浮く。
「この空間を制するのは我。我が領域を侵すこと、死と等しい」
空気がラッシュの皮膚を裂こうとしていた。
「ぼ……く……ヒーロー……!!」
空中で暴れながらも、ラッシュは拳を振り上げる。
足場などない。だが、彼の中にあるのはただ一つの思い。
「……負けない……ヒーロー……!!」
風を蹴るようにして、ラッシュの拳が下から上へと打ち上げられる。
拳が空気を穿ち、アシミル=エクスの圧縮風を打ち破った。
再び空が、沈黙した。
そして。
「ぼく、ヒーロー!!!」
第二撃。ラッシュの拳が、空中のネームドエイリアンに再び炸裂する――!
地上に叩きつけられるアシミル=エクス。
粉塵と風圧、破壊の爆音の中で、ラッシュはただ、両手を突き出し、
「ぼく……ヒーロー!!!」
とだけ、叫んだ。
勝利の雄叫び。だが、まだ戦いは終わっていない。
次のチャプターでは、ネームドエイリアンの逆襲と、ラッシュの試練が始まる。




