名前を持つ影
氷嵐が吹き荒ぶキングジョージ島。白と灰の世界の中、ひときわ黒い影が空から降下してくる。その影の名は、「名前を持つ影」——ネームドエイリアン。
「確認された。戦闘継続中の対象は、ラッシュ・スウィフト。身体強化特性を逸脱する圧倒的出力。コード分類、DANGER-CLASS」
地球上空を旋回するエイリアンの母艦《プシュケ08》の管制室では、冷静な声が流れていた。
「対処には“名前を持つ個体”を充てよ。通常個体の損耗が想定値を超えている」
「了解。指定個体、コードネーム《アシミル=エクス》。戦闘準備、前線に出ろ。」
その名を持つ者、アシミル=エクスは、かつて地球のパラグライダーを研究し、空戦特化の形態に改造された個体だった。四枚羽根のように展開する刃状の腕部と、気圧を操る能力により、大気圧そのものを武器とする特殊個体。空を飛び、真上からの奇襲と押し潰すような面制圧を得意とする。
彼の身体には、名前が刻まれていた。
それは彼らエイリアンにとって、“戦いの誇り”を持つ者にだけ与えられる栄誉だった。
「アシミル=エクス、戦闘開始」
エイリアンのオペレーターが、アシミル=エクスに指示を出した、次の瞬間、白銀の空に、四枚の黒い翼が現れた。
重力を無視するような降下。だが、雪原に足がつくことはない。
風が、空気が、ラッシュの周囲を歪ませる。
「——あれ、なに?」
と、基地内の職員の一人が呟いた。
カメラの映像には、ラッシュを中心に形成された暴風のような空間。見えない圧が視界を波打たせ、画面越しでも圧迫感を感じる。
「風が……空気圧が歪んでる。これは……!」
「来たのか……ネームドが……!」
通信越しに司令部から呟かれたその言葉が、全てを示していた。
「『名前を持つ者』が……ラッシュに向かっている!」
そのころ、現地では。
風を切り裂くように、アシミル=エクスの声が空に響いた。だがその声は、空気の振動を直接脳に叩き込むような、機械のような音声だった。
「この地の守護者へ通達する。我は狩猟の名を持つ者、アシミル=エクス。文明なき者よ、礼を尽くし死せよ」
ラッシュは、その声の意味を理解していない。
だが、彼の耳にその威圧だけは伝わった。
風の壁が迫る。
空から何かが落ちてくる。光る刃、風を裂く破裂音。
けれど、ラッシュは一歩も退かない。
「ぼく、ヒーロー!!」
叫びと同時に、その拳が振るわれた。だが、アシミル=エクスの身体は、それを回避して上空を舞う。
「ああ……!くそ、空中戦特化型か!」と所長ジョージが叫んだ。
「ラッシュには飛行能力がない。どうする……!」
「そもそも言語も通じないし戦術指示も……」
だが、ラッシュはそんなことを気にしない。
上空から刃が降ってくるたびに、それを真正面から受け止め、破壊しようと腕を振るう。避けようとしない。逃げない。
全てを正面から受け止めて、正義のような怒りをぶつける。
その姿は、まさに——
「僕、ヒーロー!!」
空に響くその叫びが、吹雪を切り裂く。
アシミル=エクスは、その動きの単調さを嘲るように空を旋回する。
「興味深い。恐れぬ者。だが、それは戦術ではない。動物的反応にすぎぬ」
その背中の空力フィンが展開する。
「ならば、速さで死を授けよう」
風が収束し始める。
「……来るぞ、次の攻撃が——!」
「パターンが変わる……回転からの、面攻撃だ!」
職員たちの声が響く中、空に巨大な空気の刃が生成された。
ラッシュの戦いは、これからが本番だった。
最近、異世界おじさんのアニメに嵌って、一週間前に観終わったに短いスパンで2周目を観てる。
面白いよね、あれ。




