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時間を稼いでくれ

雪原に点在する観測棟が、崩れた。突如、上空から降り注いだ光の柱が、キングジョージ島の研究施設群を文字通り融かし、砕き、焼き払った。


逃げ惑う職員たち。通信装置は無意味、セキュリティシステムは沈黙。島はすでに戦場と化していた。


──そして、その中心にいたのは、ラッシュ・スウィフト。


「ぼく、ヒーロー!」


ラッシュが叫びながら振り上げた拳が、エイリアンのひとりを地面ごと叩き砕く。白い粉雪が舞い上がる中、黒い体液を撒き散らしながらエイリアンの巨体が横倒しになる。だが、その背後にも、さらに3体、4体と迫る。


「左側!後退しろ!左側が破られるぞ!」


施設中央、かつて「ブロックE-7」と呼ばれていた建物の地下司令室では、所長と名乗る白髪の男がモニターを睨みつけながら叫んでいた。彼の名前はジョージ・アンダーセン博士。かつてNASAで火星探査機の管制を担った経験を持ち、南極基地における発射施設管理の全権を任されている。


「ダメです、所長。あれだけの攻撃を喰らって、発射装置の第2接続端子が物理的にズレています。自動制御では直せません」


「じゃあ誰か行って直して来い!」


「行けません、奴らが……!外に出たら即座に殺されます!」


モニターには、雪の中で暴れ狂うラッシュの姿が映し出されていた。


黒く巨大なエイリアンの身体が飛び、跳ね、そして打ち据えられる。ラッシュは叫びながら拳を振るい、凍土を砕き、敵を地中に叩き込み、凄まじい勢いで肉体の限界を超えて暴れていた。


その様子に、オペレーターの一人が言った。


「……彼なら、もしかしたら時間を稼いでくれるかもしれません」


「いや、ただの子どもだ。あの子に、戦いの全てを任せるなんて……!」


ジョージ・アンダーセンの声が震える。だが、他に手はなかった。


ふと、彼の視線がカメラ越しのラッシュと合った。もちろん、ラッシュにその意図はない。ただ、画面の奥の何かを見つけるように、彼は一瞬だけ、真っ直ぐこちらを見ていた。


そして、また叫ぶ。


「ぼく、ヒーロー!!」


その叫びに、ジョージは静かに目を伏せた。


──頼るしか、ない。


彼は、通信装置のマイクを手に取った。幸い、近距離音声だけはまだ届く。


「ラッシュ……聞こえるか、ラッシュ。所長だ。ああ、お前の知ってる“ジョージ・アンダーセン博士”だ」


ラッシュは振り返る。


「ぼく、ヒーロー!」


「そうだ。お前はヒーローだ。だから頼む、時間を稼いでくれ。この施設を、皆を、世界を守ってくれ」


その言葉に、ラッシュはゆっくりと頷いた。


敵が迫っていた。エイリアンの群れは周囲を囲み、槍のような触手を伸ばし、銃に似た武器を構えていた。


ラッシュは、一歩前に出る。


「ぼく……ヒーロー!」


その瞬間、彼の全身が発光した。


筋繊維が膨張し、骨が軋み、肉体がさらに巨大化する。まるで体がそのまま「能力」そのものに変質するかのように、異常なまでの身体能力が顕現していく。


能力名:「僕が世界を救う(アイ・アム・ヒーロー)」


爆発的な加速。一歩踏み出しただけで、氷原に轟音が響き、敵が吹き飛んだ。


ラッシュは動いた。


誰よりも速く、誰よりも重く、誰よりも強く。


「ぼく、ヒーロー!!!!」


その叫びが、風雪を裂き、敵の群れに突っ込む。


施設の復旧まで、残り10分。


それまで、彼は立ち止まらない。

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