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ぼく、ヒーロー!

発電機の爆発音が響いた。煙と瓦礫があたり一面を包み、施設の裏門が半ば崩れかけていた。その奥、寒風吹きすさぶ氷の道を進んでいた一人の職員、ゴードン・ヒューズは、背後から迫る異音に身をすくめる。


「やめてくれ、こっちに来るな!」


叫んでも無駄だと分かっていた。雪面を這うようにして追ってくるそれは、シリアルナンバー付きのエイリアン──異形の侵略者。滑るように移動する八本足の肢体。光沢のある黒い外骨格に、複眼がずらりと並ぶ。その動きに理性はあるが、容赦は一切ない。


背後から伸びた触手が、ゴードンの足を捕らえた。彼は転倒し、顔から雪面に倒れ込んだ。


「誰か……誰でも……!」


そのときだった。突如、空気が震えた。ゴウン、と地鳴りのような音が響く。


風が逆巻く。


地面が砕けた。


そして、巨大な影が空を遮った。


「ぼく……ヒーロー!」


それは叫びだった。明瞭な発音ではない。だが確かに、自分が“何者”であるかを示そうとする意思がこもっていた。


氷塊を砕いて飛び込んできたのは、全身が常識を逸した筋肉で覆われた少年──ラッシュ・スウィフトだった。


彼は素手で触手を握りつぶすと、まるでぬいぐるみを投げ捨てるようにシリアルエイリアンを吹き飛ばした。その一撃で黒光りする外骨格が粉砕され、エイリアンは十数メートル先の氷壁に叩きつけられて崩れ落ちた。


「な、なんだ……今のは……」


ゴードンは呆然としたまま、雪の中に座り込んでいた。


ラッシュは振り向きもせず、氷面に爪を立てながら前傾姿勢を取った。その姿は、まるで突進する獣のようだった。いや、正確には“超人”だった。


その瞬間、彼の体に変化が起きた。


筋繊維が隆起し、骨格が明らかに拡張されていく。体温が急激に上昇し、皮膚からは蒸気のような熱が立ち上る。


背中に小さく発光する稲妻模様。眼の奥が紅く光る。


彼の内に秘められた固有能力が、明確に発動した。


《僕が世界を救う(アイ・アム・ヒーロー)》


この能力は、身体能力の超強化を極限まで推し進めたものだ。通常の“超能力者”たちが持つ身体強化の上限を遥かに超え、銃弾も、大型車両も、果ては戦車の衝突さえも受け止める肉体を作り出す。


ただし、発動者が知的に能力を制御することはできず、本能的に“誰かを守る”という感情がトリガーとなる。


そしてラッシュは今、まさにそれを感じていた。


“この人、守る”


“この場所、だいじ”


“ヒーロー、たたかう”


言葉にはできない。けれど、魂がそう叫んでいた。


ラッシュが踏み込んだ。


氷が割れ、雪が爆ぜる。再び迫ってきたエイリアン部隊数体を一気に蹴散らす。跳躍、着地、拳、蹴り、頭突き、あらゆる物理攻撃が容赦なく振るわれる。


まるで人間兵器だった。


ゴードンはただ、それを見上げながら涙を流した。


「……ありがとう、君は……」


ラッシュは振り返って、ニカッと笑った。


「ぼく……ヒーロー!」


その声は確かに、彼にとってのすべての言葉だった。


彼の名を知っている者ならば、この瞬間を決して忘れない。


この島に、“真のヒーロー”がいたことを──。

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