迫りくる影、そして守護者
――銃声が木霊する。
氷点下の風を突き抜けて、発射音と金属の反響が吹き荒れた。キングジョージ島の発射施設「アークティック・ホライズン・ベース」は今、戦場と化していた。
「ダメだ、侵入される! バリケードが持たない!」
「急げ! 非武装職員は地下へ避難させろ!」
「こっち来るなっ、来るなあああっ!」
無線は絶叫と混線で使い物にならず、銃を持った職員たちが施設のエントランスで決死の迎撃戦を展開していた。だが相手は――異形。
銀色の皮膚に不規則な関節、まるで昆虫と爬虫類を混ぜ合わせたようなシルエット。地球上のどの生物にも似ていない彼らが、冷気を物ともせず迫ってくる。
「くそっ、弾が効かねえ!」
撃っても撃っても、敵は止まらなかった。弾丸を跳ね返す者、骨を折ってもすぐに修復する者、空間を跳躍して背後に回る者。彼らはただの兵士ではない。冷徹な狩人――スポーツハントの“プレイヤー”だ。
そんな中、前線に立っていた若い職員・ラリー中尉は、ちらりと背後を振り返る。
背後の鉄扉の向こうには――あの少年がいる。
(…彼を起こすのは、本当に正しい判断なんだろうか?)
ラッシュ・スウィフト。
知的障害を持ち、まともな会話もままならない。だがその体には、地球上に7人しか存在しない“超能力者”のひとりとして、恐るべき力が宿っていた。
――しかし、あまりに強すぎる。
訓練も命令もまともに通じない少年に、その力を使わせるなど、まさに諸刃の剣だった。
「僕、ヒーロー!」
その声が、不意に背後から響いた。
厚い鉄扉がゆっくりと開く。そこには――全身を覆うボディスーツを纏った、大柄な少年がいた。
大きな瞳。ややよだれを垂らしながらも、満面の笑みを浮かべて、拳を握る。
「ラッシュ……!」
ラリーが言葉を発するより早く、ラッシュは駆け出した。
地面を踏みしめるたびに、氷が砕ける。重力に逆らう跳躍。空気が裂け、轟音が響く。
目の前のエイリアンに向かって、ラッシュは拳を突き出した。
――ズドォンッ!!
地響きが発生するほどの一撃だった。
三メートルはあるエイリアンの体が、まるで紙くずのように吹き飛ぶ。
「ぼく……ヒーロー!」
叫びながら、次々と敵に向かって突進していく。
殴る、蹴る、掴んで投げる――その全てが、人間離れした力と速度。重機並みの破壊力。
「な、なんだあいつは……!?」
「もう超人なんてレベルじゃねえ……! 怪獣かよ……!」
職員たちが呆然とする中、ラッシュは構わず戦い続けていた。
銃弾も火炎放射も、ラッシュには通じない。むしろ笑いながら突っ込んでくる。
「僕、ヒーロー! 僕、ヒーロー!」
口にする言葉はそれだけだ。だがその声は、確かに職員たちの心を奮い立たせていた。
ラリー中尉は一瞬だけ、ラッシュの背に目をやる。
(…わかってる。知的障害があるって、こっちは理解してる。でもあいつは――)
――あいつは、誰よりも“ヒーロー”を信じてる。
「全員! この間にミサイル発射装置の復旧を急げ! 奴が稼いでくれている間に、絶対に動かせるようにしろ!」
「了解っ!!」
地下では技術班が、機械の配線を繋ぎ直し、冷却システムの復旧に奔走していた。
彼らが命を繋ぐその時間――たった一人で稼いでいるのは、言葉すら通じない“子供”だった。
エイリアンたちが次々と倒れる中、巨大なシルエットがラッシュの前に姿を現す。
――それは、明らかに他の者とは異なる構造をしていた。
幾何学的な装甲。目はなく、代わりに複数の光点が浮かぶ仮面のような頭部。
腰の位置には、鋭利な尾が巻かれていた。
ラッシュの前に立ち塞がるその存在が、口を開いた。
「識別番号――アシミル=エクス。ネームド個体、配備完了」
“ネームドエイリアン”。
人間にとっての“ボスキャラ”。
そしてラッシュの戦いは、今まさに第二幕へと移ろうとしていた。




