静寂を破るもの
南極、キングジョージ島——。
厚い氷に閉ざされたこの地には、過酷な環境下でも機能するよう設計された特殊施設《サザーランド気象観測センター》がある。表向きは気象データの観測を行う国際共同研究所。しかしその地下には、選ばれし七人の超能力者たちによる“人類最後の希望”——核ミサイル発射施設が隠されていた。
施設内の発射管制室では、異常を知らせるアラームが鳴り響いていた。
「発射制御システム、電磁波ジャミングの影響を受けています!外部からの妨害が想定されます!」
「バッテリーを切り替えろ、バックアップで制御を——ダメか!」
責任者である初老の所長、ジョージ・アンダーセン博士は、冷静に指示を飛ばす。その額には珍しく汗が浮かんでいた。何重にも対策されたセキュリティが、この異星からの侵略者には無意味であることを、彼自身が最も理解していたからだ。
「冷却系統まで停止?これは……ただの電磁妨害じゃない。機械自体に対する“現実干渉”だ……!」
その瞬間、島全体に鈍く重い振動が走った。
「……何の音だ?」
職員のひとりが青ざめた声で尋ねた。
「監視カメラ、外部映像を映せ!」
スクリーンに映し出されたのは、吹雪の中から突如として姿を現した巨大な影。鋼のような外皮、異様に長い手足、目も口もない頭部——“塔”だった。
高さおよそ300メートル。かつてアスタナ、クイアバ、アブジャに同様の塔が出現したのと同じ構造体。それがここ、キングジョージ島にも転送されてきたのだ。
「……来たか、奴らが……!」
所長は叫んだ。
「全職員、武装を!避難区画へ逃がせ!残りは防衛戦だ!」
バイオスーツを装着した警備員たちが、保管庫から火器を取り出して配置につく。島の気温はマイナス20度を下回っていたが、誰もそれを感じていなかった。
次の瞬間——塔の麓が膨張し、崩れ落ちるように“扉”が開いた。
そこから現れたのは無数のエイリアン。人類の兵器では分類不能な構造を持つ生命体たちが、雪を踏みしめずに滑るように前進してくる。
「迎撃用機関銃、作動!侵入させるな!」
凍てつく空気に、銃声が鳴り響く。
だが——。
銃弾は奴らの“皮膚”を弾くことすらできなかった。まるで時間そのものが遅くなるかのように、エイリアンたちは悠然と進む。
「人間共よ、これは最終試練だ。」
通信機を通して響いたのは、明らかに“翻訳された言語”だった。
「我らは、貴様らが知性を持つか否かを確かめている。塔を倒せるならば、存続を認めよう。だが、それが叶わぬならば……狩りは続行される。」
——“スポーツ・ハント”。
人間にとっては殺戮。彼らにとっては試練、そして娯楽にすぎない。
その時、地下区画の隅でひとり、壁に座り込んでいた少年が顔を上げた。
「……ッ……ッ、ヒ、ヒーロー……」
がっしりとした体格に、鋼のように鍛えられた筋肉。だが、その瞳の奥には幼さが残っていた。
——ラッシュ・スウィフト。
彼はただ、テレビの画面に映るヒーローの姿を思い出していた。
(僕、ヒーロー……)
口にした言葉に、意思はなかった。ただ彼にとって、それは“行動”のきっかけだった。
数秒後、施設の天井が崩れ、上層から降り注ぐ瓦礫を“何か”が受け止めた。
衝撃で発電設備が吹き飛ぶその瞬間——
「……僕、ヒーロー!」
その叫びとともに、巨体が動き出した。




