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光の糸の檻

 フリントは荒野を駆け抜けながら、背後の気配に気を張った。

 だが、その気配が突然「膨れあがる」のを感じた瞬間、心臓が跳ねる。


「……なにか来る⁉」


 背後で、ヴェル・サグリオンの翼膜が大きく広がった。

 その瞬間、彼の周囲に張り巡らされた糸が淡く光り、夜明けの空気を震わせる。


「――糸結界スレッド・ヴェイル。逃がすと思うな、走者。」


 青白い光が一斉に広がり、視界全体が蜘蛛の巣のような網で覆われた。

 赤土の大地から突き出した糸が風に鳴り、幾重にも交差して進路を塞ぐ。


(……結界を編んでいる? いや、これは罠だ。)


 フリントはすぐに進路を変えようとしたが、足元の砂からも糸が伸び、脛をかすめた。

 また新たに微細な切り傷が生まれ、装甲の一部が裂ける。


「くっ……!」


 さらに前方の空間が瞬時に歪む。

 ヴェル・サグリオンが翼膜を震わせ、糸を伝って衝撃波を送り込んだのだ。


 爆ぜる音と共に、複数の糸が振動し、四方八方から刃のような風が迫る。

 フリントは咄嗟に体をひねり、カードを一枚カードホルダーから抜くと投げつけ糸を迎撃———。

 しかし、すべては防ぎきれない。


 肩口を鋭い痛みが走る。装甲の下、皮膚を裂かれる感触。

 

 今までの軽傷とは違い、深く肉を切り裂かれる感覚、

 視界の端に赤が滲む。


「……っ、まだ……!」


 彼は痛みに顔をしかめながらも、足を止めなかった。

 結界の糸が風に鳴る音の中、ヴェル・サグリオンの低い声が響く。


「最弱の走者よ、なぜ立ち止まらぬ。」


 フリントは息を荒くし、しかし穏やかな声で返す。


「……あなたがそう呼ぶなら、それでも構わない。

けれど……“最弱”だからこそ、足を止めたら二度と前には進めないんです。」


 右肩を押さえながら、フリントは前を睨んだ。

 夜明けの光が強まり、遠くに〈オパール・ドーム〉の屋根が見える。


(あと少し……あと少しだけ走ればいい。)


 ヴェル・サグリオンは糸をさらに振るい、周囲を光で満たした。

 だがフリントはその中を、傷を負いながらもなお速度を落とさず、赤土を蹴り続けた。

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