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翳りある翼の影

 オーストラリアの赤土を踏みしめながら、フリントは速度を緩めた。

 砂塵の中に、奇妙な影が見えたからだ。

 丘の頂に、細い体躯を持つ異形が立っている。

 夜明けの光を受け、その背から伸びた翼膜が虹色に光を散らしていた。


 やがて風が止むと、その異形――ネームドエイリアン、ヴェル・サグリオンが口を開いた。

 口の形は見えない。頭部は縦長の装甲に覆われ、裂け目から蒼い光だけがのぞいている。


「……地球の走者か。」


 その声は、どこか水の底から響いてくるようだった。


 フリントは息を整え、落ち着いた口調で応じる。


「そう呼ばれているのは、どうやら僕のようですね。」


「貴様たちは弱い。だが、面白い。」

「我らは貴様たちに贈り物をした。だが――その贈り物を、己の命を削るために使うとは。」


 フリントは走りを止めず、ただ姿勢を低くして砂を蹴った。


「あなたがたが望む“狩り”を否定するつもりはありません。

けれど、守るべき人たちがいるんです。だから、僕は走る。」


 ヴェル・サグリオンの細い腕がゆっくりと広がる。

 その先端から、光る糸が無数に伸び、夜風に漂った。

 蜘蛛の巣のように輝く糸が、道をふさぐ。


「良かろう!意志ある者よ!

だが通すわけにはいかない!ここが貴様の終着点だ!!」


 フリントは肩を竦め、カードケースに指をかける。


「あなたにそう言われて、はい、そうですかと止まれるわけがありませんよ。」


 ヴェル・サグリオンは小さく笑ったように見えた。

 翼膜が震え、虹色の反射光が乱れ飛ぶ。


「それで良い、では狩りを始めよう。走れ――走者!」


 フリントはわずかに目を細めた。

 温厚な瞳の奥に、決意の炎が宿る。


「……それでは、お互いに後悔しないように。」


 次の瞬間、光る糸が一斉に地面へ打ち込まれ、砂が舞った。

 フリントはそれを見据え、さらに速度を上げた。

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