赤土の朝と小さな目
まだ夜が明けきらない、アリススプリングス郊外の町外れ。
赤土の大地に建つ低い家々が、かすかな朝焼けに照らされていた。
風が砂を運び、ブッシュがこすれる音が聞こえる。
けれど、その静けさを破るように――遠くで何かが壊れる音がした。
わたしは、まだ十歳にも満たない。
母と一緒に、町の外れにある祖母の家へ行く途中だった。
薄暗い未舗装路を歩いていたとき、ふと、空の上に黒い影を見た。
巨大な塔が、まるで空から降ってきたように地平線に立っていた。
次の瞬間、その根元から、見たこともない形のものたちが走り出してきた。
銀色の体、細長い腕、光る目。
人間じゃない。
でも、動いている。こっちを見ている。
「お母さん、あれ……なに?」
母は答えなかった。
代わりに手を強く握られた。
遠くから悲鳴が聞こえた。誰かが叫んでいる。
次の瞬間、家の屋根が爆発するように吹き飛んだ。
火の粉が空に舞った。
「走って!」
母が叫んだ。
わたしは夢中で走った。
けれど、後ろから「それ」が追いかけてくる足音が聞こえた。
――カシャ、カシャ、カシャ。
地面を鋭い爪で引っかくような音。
振り向いた。
光る目が、すぐそこにあった。
ひとりの男の人が捕まっていた。
エイリアンの細長い腕が、その人の体を持ち上げていた。
そのまま、何かの光が走って――体が動かなくなった。
わたしは、息が詰まった。
「お母さん、助けて……!」
泣きそうになったとき、母の手が私の背中を押した。
その瞬間、銀色の何かが目の前に飛び込んできた。
爪が光り、私の目の前まで迫った。
声が出ない。
頭が真っ白になる。
耳元で、誰かの悲鳴が遠ざかる。
胸の奥で、何かがつぶれそうになる。
私はただ、その銀色の怪物を見つめていた。
足がすくんで動けない。
何かに捕まるような感覚が、もうすぐそこまで来ていた。
――そのときだった。
夜明け前の風の音に混じって、別の足音が近づいてくる。
重く、しかし確かなリズム。
誰かが、こっちへ走ってくる。




