フリント・ハーグレイブ
〈ハルダラ民家〉の地下、警告灯が緑に変わり、発射管制盤が低い唸りをあげる。
一本目の核ミサイルは、すでに大気圏を抜けた。
その事実を胸に、サファルは壁にもたれかかった。
息が上がり、傷口からの血が腕を伝って滴り落ちる。
「……一本目……タッチダウン……。」
その言葉に、無線の向こうで歓喜の声が弾けた。
「サファル、発射を確認! 一本目、成功だ!」
「よくやった……本当によくやった!」
だが歓喜の余韻は短く、司令部のモニターがすぐに別の映像に切り替わった。
「次の走者はオーストラリア戦域! アリススプリングスだ!」
映像が南半球へ切り替わる。
夜明け前の赤土の大地。乾いた風がブッシュを揺らし、地平線には黒い塔が鋭く突き立っている。
そして塔から少し離れた場所――観光客向けの大型ドームが建っていた。
外壁は古びた砂色、だがその内側は鉱山観光施設〈オパール・ドーム〉。
かつてオパール採掘で栄えた地下坑道を改装し、採掘体験や鉱石展示を行う名所だった。
しかし今、そのドームのさらに地下に、誰も知らない核ミサイル発射システムが隠されている。
司令官イフェオマが通信を開いた。
「フリント、こちら司令部。一本目のタッチダウンを確認した。次は君だ。〈オパール・ドーム〉へ向かえ。」
少しのノイズを挟んで、落ち着いた声が返ってくる。
『……了解しました。サファルの走り、見事でしたね。
彼がつないだこの道を、僕が確かに引き継ぎます。』
フリント・ハーグレイブの声は、知的で温かい響きだった。
映像には、彼が夜明け前の荒野を歩む姿が映る。
ヘルメット越しの瞳は穏やかだが、奥に鋭い意志を秘めている。
「塔の南側に、避難が遅れた民間人がいる。敵の哨戒群も複数いるが……」
『救える人がそこにいるのなら、見過ごすことはできません。
彼らを安全圏まで導いたうえで、〈オパール・ドーム〉の地下へ向かいます。』
赤土の風に吹かれながら、フリントは空を仰いだ。
南十字星がまだ残る空が、彼の視線を優しく照らす。
『……あの星座は、迷った人間を導くと言います。
今夜は、僕が迷わず進む番ですね。』
司令室の兵士たちは、その静かな声に深く頷いた。
彼の歩みが、次の未来を切り開くのだと確信するように。
サファルは無線越しにその言葉を聞き、痛みに霞む意識の中で口元を緩めた。
「……頼んだ……フリント……。」
彼の瞳に、まだ昇りきらぬ朝日が映る。
遠くのオーストラリアの大地では、フリントが静かに歩を進めていた。
黒い塔を背景に、その背中はゆるぎない。
(俺たちの走りは……まだ続く。南半球の荒野へ――。)
砂が舞い、夜と朝の境目に新たな戦いが幕を開けようとしていた。
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2025/08/05




