タッチダウン
荒野の風が止んだ。
遠くの空で黒い塔が唸りを上げるが、サファルはもはや振り返らなかった。
胸の傷から血が流れ、硬化した体にも限界が来ていたが、彼はただ一歩、また一歩と進んだ。
目の前に現れたのは、砂に埋もれた古びた民家――
〈ハルダラ民家〉。
外壁にはひびが入り、崩れかけた屋根は赤茶けていたが、サファルはその先に隠されたものを知っている。
玄関の戸を押し開ける。
ギィ、と軋む音。
中は誰も住んでいない廃屋のようだ。埃が舞い、古い家具が朽ちている。
だが、その奥――台所の床にある、何気ないフロアタイル。
そこを踏むと、低い駆動音が響いた。
床が開き、下へと続く金属階段が姿を現す。
(間に合った……!)
サファルは階段を駆け下りた。
そこは一転、無機質な発射管制室。
壁一面に警告灯が瞬き、中央には鋼鉄の発射制御盤が鎮座していた。
腰のポケットから銀色のカードキーを取り出す。
手が震える。疲労のせいか、達成への高揚か、自分でもわからない。
(オケケ……エステバン……見ててくれよ。)
カードスロットにキーを差し込み、深呼吸する。
赤い警告ランプが彼を睨む。
そして――キーを押し込んだ。
「ピッ」という短い電子音が鳴る。
画面の警告が解除され、モニターに緑の文字が浮かび上がる。
《LAUNCH CODE ACCEPTED》
機械音声が続いた。
「タッチダウン。」
その言葉を聞いた瞬間、サファルは力が抜けたようにその場に膝をついた。
遠くで管制システムが作動音を立て、ミサイルの格納庫が震える。
司令部・ナイジェリア戦域
「――来た! 来ました!!」
オペレーターの叫びに、司令室がどよめく。
スクリーンには〈ハルダラ民家〉内部の発射状況が映し出され、右上には緑の文字。
《TOUCHDOWN CONFIRMED》
別の兵士が拳を握りしめる。
「これで……これで一本目だ! 一本目のミサイルが……!」
副官が思わず席を蹴って立ち上がる。
「やった……やったぞサファル!!」
歓声が、これまでの重苦しい空気を切り裂いた。
誰かが泣き、誰かが机を叩いて笑った。
その中央で、司令官イフェオマは目を閉じ、低くつぶやく。
「……よくやった、サファル。オケケ、エステバン……聞こえるか。
君たちの走りが、確かに繋がった。」
司令部の端末が次の作戦データを表示し始める。
モニターの中のサファルは、立ち上がり、血を拭って再び歩き出していた。
(まだ……まだ終わりじゃねえ。
次の塔が……待ってる。)
画面を見つめる誰もが、その背に自分の願いを託した。




