黒刃の逆潮
拳を叩き込んだ手ごたえが、サファルの腕にまだ残っていた。
ルド・ヴァリクスの体は砂煙を巻き上げて吹き飛び、瓦礫に激突して沈む。
その瞬間、サファルの胸に、久しく忘れていた高揚感が宿った。
(これなら……! 今度こそ俺が――)
だが、砂の中から響いた声が、その希望を凍らせた。
「……いいだろう。認めてやる……人間。」
瓦礫の影から、ゆっくりとルド・ヴァリクスが立ち上がる。
折れたはずの刃が再生していく。
裂けた装甲が、赤黒い繊維で縫われるように修復される。
その身体から、先ほどより濃密な黒い靄が噴き出した。
「貴様……面白い。ならば私も、狩人として恥じぬ牙を見せよう。」
その声と同時に、大地が鳴動した。
塔の方角から光の筋が伸び、ルド・ヴァリクスの背へと注がれる。
瞬間、彼の四本の腕が膨れ上がり、刃が変形した。
もはや剣ではない。槍、鎌、鉤爪――形を変えながら、凶器の群れとなって蠢く。
サファルは一歩踏み出し、体を硬化させたまま構える。
だが敵の動きは、その想定を超えていた。
ルド・ヴァリクスが跳んだ。
砂煙が爆発し、巨大な影が空を裂く。
上段から槍のような刃が雨のように降り注いだ。
「……っ!」
サファルは腕で庇ったが、衝撃が岩をも砕く。
耐えた瞬間、横から鉤爪が回り込み、彼の脇腹をえぐった。
鋼のような肉体をも貫通する鋭さ。
硬化した皮膚に深い裂け目が走る。
「ぐあっ……!」
そのまま後方に弾き飛ばされる。
着地しようとするが、地面から突如生えた槍状の刃が脚を捉えた。
岩のような脚に衝撃が走り、サファルは地面を転がる。
(こいつ……全身を武器に変えて……!)
ルド・ヴァリクスは追撃をためらわない。
後方に跳んだかと思えば、尾のように伸びた刃を地面に突き立て、反動でサファルの頭上を取る。
そこから渾身の落下蹴り――いや、刃を足に変えた必殺の一撃が迫る。
サファルは咄嗟に両腕で受け止めたが、重さと鋭さに押しつぶされ、瓦礫の山に沈み込んだ。
「ぐっ、ああああああっ!」
耳の奥が揺れる。
視界が白く弾け、血が喉の奥に逆流する。
サファルは歯を食いしばりながら拳を握りしめたが、動き出そうとするより早く、ルド・ヴァリクスの声が降ってきた。
「貴様は岩だと言ったな。だが岩も、時に粉砕される。」
ルド・ヴァリクスが両腕を広げ、周囲の刃を操る。
瓦礫の下から十数本の黒い刃が飛び出し、サファルの体を囲んだ。
避けようとするも、硬化した腕が二本の刃に深く抉られる。
「ぐ……ぅ……!」
痛覚が鋭く戻ってくる。
硬化を維持するエネルギーが削られていく感覚。
ルド・ヴァリクスはゆっくりと近づき、四本の腕を交差させて構えた。
「さあ、岩よ。これ以上、どこまで耐えられる?」
黒い靄がさらに濃くなり、戦場の空気が凍りつく。
再び、戦況はエイリアン側の手に握られていた。
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2025/08/04




