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岩は折れない

肩から血が滴り、膝が砂に沈む。

 ルド・ヴァリクスの黒い刃が四方から迫るのを、サファルはかろうじて腕で弾き、受け、かわした。

 だが視界はかすみ、呼吸は荒く、拳を握る力が抜けていく。


(……これで終わりか? ここまでか……?)


 脳裏をよぎるのは、幼い日の光景だった。

 白い施設の、あの狭い部屋。

 ガラス越しの外を見つめながら、少年サファルは無意識に拳を握っていた。


『どうして俺たちだけ、こんなところに……?』


 ある夜、耐久訓練に失敗したサファルは、両手を包帯で巻かれたまま一人きりで泣いていた。

 そこへオケケがやってきて、黙って彼の肩を叩いた。

 その後ろでフリントがからかうように笑った。


『お前、また鉄柱殴ってたんだろ。馬鹿だなあ。』

『でも……壊れなかっただろ? なら次はもっと強くなれるさ。』


 それは、子ども同士の冗談めいた慰めだった。

 だがサファルはその言葉に救われた。

 「俺は壊れない」という想いが、その夜から胸の奥に根を下ろした。


 今、その記憶が胸の中で燃える。

 拳を握り直し、サファルは地面に手をつく。

 砂を、岩を、その感触を確かめる。


(俺は……壊れない。

 仲間が、俺はもっと強くなれるって笑ってくれた。

 だから――ここで止まるわけにはいかない!)


 心臓が一度、大きく脈打つ。

 その鼓動が全身に波となって広がり、骨と筋肉が軋む。

 皮膚の下で、硬質な何かが生まれる感覚。


 刃が頭上から振り下ろされる。

 だがサファルは、恐怖ではなく確信の声で叫んだ。


「俺は岩だ――壊れねぇッ!」


 その瞬間、彼の全身が黒い鋼鉄のように変わった。

 ルド・ヴァリクスの刃が肩にめり込むが、砕け散ったのは刃の方だった。


「な……に……!?」


 黄金の瞳が見開かれる。

 サファルは立ち上がり、拳を握った。

 それは岩を超えた硬度を持ち、血は流れず、痛みもない。


「悪いな……俺はまだ走るんだよ!」


 拳が横薙ぎに振り抜かれ、ルド・ヴァリクスの胴を打つ。

 異形の体が吹き飛び、砂嵐の中を転がった。


 サファルは息を吐き、硬化した体を見下ろした。


「……これが……俺の固有能力……!!

 あの夜、仲間の言葉に縋った俺が……俺の才能が花開い力だ!」


 再びルド・ヴァリクスが立ち上がる。

 だがその顔に、先ほどまでの余裕はない。


「走者……貴様……!」


「さあ、もう一度試してみろよ。

 今度は――俺が砕いてやる!」


 サファルは砂を蹴り、拳を振りかざして突進する。

 嵐の中、彼の体は岩となり、恐怖は消えていた。

 戦況は、再び人類の側へと傾き始めていた。



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