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黒刃の解放

岩壁に叩きつけられたルド・ヴァリクスの体から、青白い火花が散った。

 四本の刃のうち一本は折れ、装甲の裂け目から黒い液体が流れ出ている。

 だが黄金の瞳は、なおも光を失わなかった。


「……走者……やはり貴様は強い。」


 サファルは拳を構え、砂を蹴って間合いを詰めようとした。

 だがその瞬間、ルド・ヴァリクスの全身から、異様な波動が迸る。


 空気が重くなり、砂が震え、周囲の瓦礫が浮き上がった。

 サファルは直感する――来る。


「これは……?」


 ルド・ヴァリクスは低く唸り、残った三本の刃を胸の前で交差させた。

 その表面がじわじわと赤黒く変色し、やがて溶岩のように脈動を始める。


「名を持つ者にのみ許された、我らの“解放”だ。

……我が刃は、貴様の肉と骨を喰らうために生まれた。」


 次の瞬間、刃がうねりを上げた。

 刃そのものが生きているかのように長く伸び、根を張る蔦のようにうねり、炎のような光を帯びる。

 その一本一本が、自律して動く生き物のようだった。


 サファルが踏み込むと同時に、刃の一本が地面を突き破り、真横から彼の腰を狙う。

 咄嗟に腕で受けたが、骨に響く衝撃で痺れが走る。


「ぐっ……!」


 別の刃が上から振り下ろされる。

 サファルは後ろへ跳んだが、その足元から新たな刃が生え、脛をかすめた。

 浅い傷だが、そこから焼けるような痛みが走る。


(何だ……動きが読めない……!)


 ルド・ヴァリクスの背から、黒い靄が立ち上る。

 それは怒りでも憎しみでもない。ただ、狩人としての高揚感だった。


「人間よ。誇るがいい、ここまで走ったことを。

だがここで終わる。貴様の骨は、私の刃に刻まれる。」


 サファルは拳を握り直し、唇を噛む。

 だが次の瞬間、刃の嵐が四方から襲いかかった。


 前方から二本、横から一本、そして地面からもう一本――

 すべてを同時に防ぐのは不可能だ。


 サファルは上段を受け、横を避けたが、背中に焼けるような痛みが走った。

 最後の刃が肩を裂き、血が噴き出す。


「ぐああっ……!」


 膝をついたサファルの頭上で、ルド・ヴァリクスの刃が交差する。

 赤黒い光が強く脈打ち、低い声が響いた。


「これが、狩人の牙だ。」


 サファルは歯を食いしばりながら立ち上がろうとするが、次の刃が脚を貫いた。

 砂嵐の音が遠くなり、視界がかすむ。


(……まだ……負けられねぇのに……!)


 だが現実は残酷だ。

 ルド・ヴァリクスの固有能力により、戦場の主導権は再び彼のものになった。

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