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刃と言葉

 砂嵐が途切れた一瞬の静寂。

 瓦礫と乾いた草に覆われた斜面の中腹で、サファルは立ち止まった。

 背中の汗が冷たくなり、息が白く揺れる。


 そのときだった。

 前方の空間が揺らめき、青白い光の柱が地表を貫いた。

 砂が吹き飛び、空気が軋む。

 光が収まったとき、そこに異形が立っていた。


 四本の腕に、刃のような骨を備えた黒い影。

 黄金の瞳が、サファルをまっすぐ射抜いた。


「……走者だな。」


 低く響く声。

 だがそこには獣のうなりではなく、理性的な響きがあった。


 サファルは拳を握り直し、ゆっくりと構える。


「あんたが……名を持つやつか。」


 影が頷く。


「ルド・ヴァリクス。それが私の名だ。

貴様がサファル・アリムバエフか。」


 サファルは答えず、視線を逸らさずに相手を見据える。

 ルド・ヴァリクスはわずかに首を傾けた。


「貴様ら人間は、名を得て走ることを選んだか。

理解できなくはない。だが、我らにとって狩りは文化だ。

獲物を走らせ、追う。それが我らの誇りだ。」


 その言葉に、サファルは歯を食いしばった。


「……誇りだと? 街を踏みつぶし、家族を奪っておいてか。」


 ルド・ヴァリクスの瞳にわずかな陰が差す。


「我らは貴様らを憎んでいるわけではない。

狩りをするのは、我らが祖先を忘れぬため。

貴様らの倫理など、我らには届かぬ。」


「だからって、殺される側が納得できると思うのか。」


 ルド・ヴァリクスは刃をゆっくり交差させ、金属音を鳴らした。


「理解は求めぬ。だが、拒むならば貴様はここで倒れる。」


 サファルは鼻を鳴らし、口元に笑みを浮かべる。


「……やってみろよ。

俺は、オケケの分まで〈ハルダラ民家〉にカードを差す。

誰が俺を止めるって?」


 その名を口にした瞬間、ルド・ヴァリクスの瞳がわずかに細められた。


「……あの女か。強かった。誇り高かった。

だが最後には私の同胞に倒れた。」


 サファルの拳がわずかに震える。


「なら、次は俺がやる。」


 ルド・ヴァリクスは四本の腕を広げ、刃を構える。

 砂嵐が二人の間を吹き抜け、遠くの塔が低く唸った。


「いいだろう、走者。貴様の足を試させてもらう。」


「試す? 上等だ。――壊す覚悟で来い。」


 二人の間に、静かな殺気が満ちていく。

 砂の粒が舞い、空気が震える。

 やがて、雷鳴が遠くで鳴り、戦いの火蓋が落とされようとしていた。

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