表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/119

名を持つ刃

 黒い塔の頂上、透明な壁越しに地平線を見下ろす広間がある。

 そこはエイリアンの作戦司令室。

 光沢のある床に、幾何学的な文様が淡く光り、静かな空気が張り詰めていた。


 司令官ヴェル=ターハは、手元の立体映像を眺めていた。

 そこにはサファル・アリムバエフの姿が映し出されている。

 荒野を駆け、仲間を救い、〈ハルダラ民家〉を目指すその人影。

 その動きを見て、背後の副官が低くつぶやいた。


「人間の走者……やはり、面白い。No.732とNo.611は交戦中だが、彼を止められそうにありません。」


 その名を持たぬ兵士たちは、胸に埋め込まれたシリアルプレートで識別されている。

 だが彼らはただの機械のような存在ではなかった。

 彼ら自身にとって、番号は誇りであり、役割を示す名札だった。

 そして彼らは自分の意思で戦い、命令を選び取る。


 彼らは理性的だ。

 仲間を無為に死なせないよう、戦術を議論する。

 人間のように欲望を暴走させることもない。

 だが――人類とは根本の価値観が違った。


「彼らは自分たちを殺しに来ているのではありません。」

「……ああ。狩りだ。」


 副官の言葉に、ヴェル=ターハは薄く笑った。


「この遊戯は我らの文化だ。狩猟本能を忘れぬための儀式。

地球人の倫理など我らには関係がない。」


 そう語る声に憎悪はない。

 ただ、遥かに進んだ文明から幼い種族を見下ろすような、冷ややかな余裕だけがあった。


 ヴェル=ターハは周囲を見渡す。

 整然と並ぶシリアルナンバーの戦士たちが、彼の言葉を静かに待っている。

 どの顔も理性的で、冷静で、誇りを宿している。


「お前たちの努力は称賛に値する。だが……」


 ヴェル=ターハは映像のサファルを指差した。


「あれは、名を持つ者が相手をすべきだ。」


 沈黙が落ちたのち、奥の暗がりから大きな影が歩み出た。

 四本の腕を持ち、肩から鋭い刃を伸ばしたネームドエイリアン――

 ルド・ヴァリクスである。


 黄金の瞳が一瞬だけサファルの映像を見つめ、彼は唇の端を上げた。


「私が行こう。」


 副官が問う。


「ルド・ヴァリクス……よろしいのですか? 彼ら人類は――」


「我らを恐れ、憎む。だがそれは理解している。

我らも彼らを害したいわけではない。

だが我らの狩りを拒むのなら……容赦はしない。」


 その声は感情に乏しい。

 だがそこには、確かに自我と誇りがあった。


 ヴェル=ターハは頷き、床の紋章を起動させた。

 青白い光が広間に広がり、ルド・ヴァリクスの体を包み込む。


「行け。あの人間の走りを、終わらせてやれ。」


 転送の光が閃き、ルド・ヴァリクスの姿が消える。

 その背を見送りながら、シリアルナンバーの戦士たちは誇り高く直立した。

 彼らにとっても、この儀式は自分たちの文化を映す鏡だった。


 地上の砂嵐の中に、やがて青い閃光が走る。

 ルド・ヴァリクスが、次なる“獲物”の前に降り立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ