〈ハルダラ民家〉への道
砂煙の向こうから、低い咆哮が近づいてくる。
私は地面に膝をついたまま、震える手で布を握りしめていた。
すぐそばに、さっき助けてくれた兵士が倒れている。
まだ温かいのに、もう動かない。
そのときだ。
耳をつんざくような破裂音とともに、影が横へ吹き飛んだ。
砂を巻き上げ、巨躯のシルエットが現れる。
――サファル・アリムバエフ。
大地を踏みしめるような重い足取り。
肩幅の広さに似合わない俊敏さ。
砂と血で汚れたジャケットの胸元に、銀色のカードキーが光った。
「下がってろ。ここは俺が通す。」
その声は短く、しかし深く響いた。
私が立ち上がるより早く、サファルは別の影へ突進していた。
拳が風を裂き、骨を砕く音が響く。
私は思わず、彼の後ろ姿を追いかけた。
その先にあるものを、知りたかった。
彼は仲間の兵士に私を引き渡し、確認するように問いかける。
「避難ルートは確保できてるな?」
「あ、ああ、南のトラックが待機してる!」
サファルは短く頷くと、遠くの塔を見上げた。
砂嵐の彼方、黒い塔の根元から西へ二キロほど――
そこに見える、一見するとただの古い民家。
屋根は赤茶け、壁には砂漠の風で刻まれた傷がある。
しかし、サファルは知っている。
(……あそこが〈ハルダラ民家〉。
表向きは農家の廃屋。だが地下には発射サイロが隠されている。
このカードキーを届ける。それが俺の使命だ。)
彼の手が、ジャケットの内ポケットを確かめる。
銀色のカードキーの感触が、彼を再び奮い立たせる。
(オケケ……エステバン……お前たちの分まで走る。)
砂煙の向こうで、エイリアンの群れが再び形を成す。
奇声を上げ、爪を鳴らし、サファルを囲むように配置する。
彼はひとつ息を吐き、地面に足を強く踏み込んだ。
全身に力を込め、黒い塔と〈ハルダラ民家〉を睨みつける。
「どけよ。俺は行く。」
走り出す。
敵の爪が光る。
砂塵が舞い、空が暗くなる。
だが彼の足は止まらなかった。
(絶対に辿り着く。〈ハルダラ民家〉でタッチダウンを決めるんだ……!)
その決意と共に、サファルは敵陣へと突入した。




