僕らが育った場所
世界がまだ静かだったころ――
サファル・アリムバエフは、ガラス張りの施設の中で生まれた。
そこには、母の声も、父の顔もなかった。
ただ無機質な白い壁と、眠り続ける培養槽と、規則正しい点検の足音だけがあった。
名前を持つ前、彼らは番号だった。
No.04──それが彼の最初の呼び名だった。
「君たちは特別な子どもたちだ。」
「人類の未来を託されている。」
白衣の研究員が笑顔でそう告げた。
だが子ども心にも、その笑みの奥に滲む罪悪感と疲れを見抜いていた。
朝はランニングから始まり、昼は耐久訓練。
夜は座学で戦術を叩き込まれた。
食事は栄養管理され、傷はすぐに治療された。
だが温もりはなかった。
サファルが唯一、心を許せたのは、同じ部屋で育った仲間たちだった。
笑顔のステルン、負けん気の強いオケケ、皮肉屋のブレイク、真面目なレイフ、無邪気なフリント、そして誰より速く走るエステバン。
彼らと過ごす時間だけが、サファルに「家族」という言葉を教えた。
(親はいない。血も繋がっていない。
でも俺たちは……確かに兄弟だった。)
ときには反発し、ときには拳を交えながら、彼らは互いの傷を拭った。
夜、ベッドの上で誰かが泣き出すと、皆が黙って手を伸ばした。
その温もりだけが、人工的な施設の中で唯一の「人間らしさ」だった。
だが、彼らはその時まだ知らなかった。
自分たちの存在が、ある日突然、世界を救うための兵器として送り出されることを。
彼らは夢を語り合った。
サファルはその中で、ぽつりと言ったことがある。
「もし外に出られたらさ……俺、でかい岩を抱えてでも、誰かを守りてえんだ。」
その言葉に、皆が笑った。
オケケが言った。
「あんたならできるよ、あの頑固な腕ならね!」
あの日の笑い声が、今もサファルの胸に残っている。
そして、世界が火に包まれたとき――
その約束が、彼を走らせ続ける理由になった。




