次なる走者へ
オケケを呑み込んだ森が、遠くのモニターの片隅でゆっくりと風に揺れていた。
だが司令室に留まっている時間は、もはや残されていない。
別のスクリーンが点滅し、衛星追跡の新しい光点が浮かび上がった。
「次の走者を確認! エリア・カザフスタン、東部高原地帯!
サファル・アリムバエフ、移動開始!」
オペレーターの声に、室内の視線が一斉に集まる。
映し出された映像は、砂嵐と灰色の雲に覆われた荒野を映していた。
そこを、ひとりの男が走っている。
背負った簡易パックからは、発射カードキーの銀色のロッドが覗いていた。
「サファル……頼んだぞ……。」
司令官イフェオマの声は低く、だが確かな決意を含んでいる。
部下たちの誰もが、その名を知っていた。
“巨岩のサファル”。
固有能力は未知の耐久性を持つ肉体――
人々は、彼が壁のように立ちはだかる様を何度も見てきた。
モニターの中で、サファルは一瞬だけ立ち止まり、風に目を細める。
そして無線から、彼の低い声が聞こえた。
『……オケケが倒れたと聞いた。……あいつらしくやり遂げたんだな。』
司令室が一瞬、静まる。
『……泣いてる暇はないな。俺が行く。
あの女の分まで、塔を抜ける。聞こえるか、仲間たち……俺は走るぞ。』
その声は、荒野の風と砂に混じりながらも力強かった。
オペレーターが頷き、キーボードを叩く。
「サポート班、サファルルートの敵情報を送れ! ドローン索敵を展開、エイリアン群の位置を割り出せ!」
司令室が再び活気を取り戻す。
オケケを失った痛みを抱えたまま、それでも誰も手を止めない。
――その頃、サファルは荒野の稜線を越えていた。
空は重い雲に覆われ、塔が遠くに影を落としている。
大地の先に、エイリアンの前哨陣地が見えた。
その黒い群れが、彼の存在に気づき、ざわめく。
(来いよ……俺はここだ。)
サファルは胸の奥に静かな炎を灯した。
オケケの笑顔が、走り続けるための力をくれる。
(……見てろよ。俺は絶対に……あの塔を破壊する。)
背後で風が砂を巻き上げ、黒い影がいくつも立ち上がる。
咆哮が荒野に響き、空気が震える。
サファルは足を止めない。
胸にカードキーを抱き、荒野を駆け出した。
「次は……俺の番だ!」
雷鳴が鳴り、遠くの塔が不気味に光った。
新たなバトルの幕が、いま静かに上がろうとしていた。




