司令室に落ちる静寂
ナイジェリア戦域管制司令部。
昼だというのに、雲が厚く、窓の外は薄闇に覆われていた。
雨の音が遠く響き、巨大スクリーンにはアブジャ市街の衛星映像が映されている。
そこには、数十分前まであったはずの街並みが――緑に覆われ、静まり返っていた。
「……なんだ、あの森は……?」
誰かが呟いた声が、司令室の緊張を裂く。
オペレーターたちは次々に端末を操作するが、エイリアンの妨害波の影響で映像が途切れ途切れになる。
「ランナー・オケケのバイタルは!?」
「……っ……! 心拍、ゼロ……呼吸反応……ロスト……!」
報告した若い兵士の声が震えていた。
司令官イフェオマは、スクリーンを睨みつけ、硬く唇を噛む。
その目は決して涙を見せまいと必死に堪えている。
「そんな……あの人が……」
横でモニターを見ていた副官が声を漏らした。
映像の断片が再生される。
最後に映ったのは、蔓に包まれていくネームドエイリアンたちと、その中心で倒れるオケケの姿。
雨に濡れた彼女の顔が、かすかに笑っていた。
「……まさか、彼女ひとりで……あの街を……。」
誰かが呟く。
それを聞いた別の隊員が拳を握りしめ、机を叩いた。
「くそっ……これで二人目だぞ! エステバンに続いて……オケケまで……!」
空気が重く沈む。
誰もが言葉を失い、キーボードを叩く音だけが響く。
イフェオマは深く息を吐き、周囲を見渡した。
部下たちの目がすがるように彼女を見ている。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「いいか……彼女は――リワン・オケケは、走り抜いてくれた。
あの森を見ろ。あそこまで敵を押し返したのだ。」
静寂の中に、指揮官の声だけが響く。
「……あの命を無駄にするな。
残る走者たちを――必ず支えろ。
カードキーを届けさせるんだ。」
副官がこぶしを握ったまま頷く。
「……イエス、マム。」
別の兵士が泣きそうな顔で叫ぶ。
「でも……もう二人も……! 本当に、勝てるんですか!?」
イフェオマは一瞬、目を閉じた。
そして力強く答えた。
「――勝たせる。
彼女たちの死は、道を拓くためのものだ。
ここで足を止めたら、あの街で散った命が笑えない。」
再び緊張の糸が張り詰める。
通信員が新たな情報を読み上げる。
「次の走者、位置確認……北方面の塔を目指して移動中! モニターを切り替えます!」
スクリーンの映像が変わる。
雨の中を走る、別のランナーの後ろ姿が映し出された。
イフェオマは胸の奥にオケケの笑みを刻み、低く呟いた。
「……頼んだよ。次の走者。」
そして司令室は再び怒号とキーボードの音に包まれ、戦いの指令が飛び交い始めた。




