緑に呑まれる街
胸の奥で何かが折れた感触があった。
肺が満足に動かない。吐き出した息に血が混じり、雨と一緒に路面に落ちていく。
オケケは瓦礫に体を預け、しばらく目を閉じた。
(……もう……この身体じゃ……走れない……)
痛みが波のように押し寄せる。
それでも、心の奥は不思議と静かだった。
遠くの塔が、黒い影となって煙の向こうに見えている。
あそこへは、もう自分の脚では辿りつけない。
ルド・バルカスの足音が近づく。
エイリアンの雑兵たちが、その後ろに群れているのが見えた。
彼らはもう、目の前の獲物が弱っているのを知っている。
黄金の瞳が冷たく光る。
(……でもな……私がここで終わるなら……最後にやれることがある……)
オケケは震える手を、雨に濡れたアスファルトへと押しつけた。
指先にまだわずかに力が残っている。
思い出すのは、この街の公園で笑っていた子供たち。
緑の下で遊んでいた、あの日の午後。
(……私は、あの日誓った……守るって……だから……)
血を吐きながら、歯を食いしばる。
胸の奥から、あの時と同じ音がする。
土を割るような音。芽吹きの音。
そして――
「この街を……私の森にする……!」
オケケの叫びとともに、地面が脈打つ。
瓦礫の間から、緑の蔓が噴き出した。
それは一本ではない。何百、何千もの枝と根が、雨を裂き、空へと伸びていく。
ルド・バルカスが刃を構えたが、その足元を太い根が絡め取る。
後方のエイリアンたちも次々と捕まり、悲鳴を上げる。
建物の壁からも緑が溢れ出し、電柱や街灯を伝って網のように広がる。
「な……に……!」
ルド・バルカスの顔に焦りが走ったその瞬間、根が地面を割って立ち上がり、巨大な木の幹のように変貌した。
緑の津波が押し寄せ、雑兵のエイリアンを次々に絡め取り、締め上げる。
金属の装甲が軋む音、骨が砕ける音が、雨音の中に交じった。
オケケは瓦礫の上でうつむき、血で濡れた拳を握る。
(……これでいい……私が走れなくても……
この街は……私が護る……!)
巨大な根がルド・バルカスの胴を巻き、装甲を砕き始める。
稲妻が散り、敵の咆哮が夜空を震わせる。
彼はもがくが、次々と生まれる蔓が四肢を絡め、逃がさない。
「ぐ……おおおおおお!」
最後の抵抗の声が上がる。
だが森は容赦なく成長を続け、やがてルド・バルカスごと街の一部を呑み込んだ。
遠くから見れば、そこだけ一夜にして生まれた黒緑の森が広がっているようだった。
オケケはその中心で、雨を浴びながら目を閉じた。
足元から立ち昇る命の匂いを感じながら、静かに呟く。
「……みんな……行け……私は……もう……ここまでだ。」
手から力が抜け、身体が瓦礫に沈む。
最後に聞こえたのは、敵の断末魔と、森のざわめきだった。
(……次は、頼んだよ……みんな……)
オケケの瞳から光が消え、雨が彼女の頬を静かに伝った。
何時ぐらいに更新すればいいんだろうね?




