芽吹く決意
瓦礫の上に倒れたまま、オケケは荒い息を繰り返していた。
雨は冷たい。肩口の傷から血が滲み、路面に濃い赤を描いている。
耳鳴りの中で、ルド・バルカスの足音が近づいてきた。
「終わりだ、走者。貴様の足はここで折れる。」
重い声が頭上から降る。
オケケはうつむいたまま、震える拳を握りしめた。
視界の端に映るのは、崩れた街の残骸。
かつてここにあった小さな公園、緑の木々、笑う子供たちの姿――記憶が胸を刺す。
(……こんな場所で、こいつらに……全部、踏みにじらせるのか?
私があの日、守れなかったあの子たちを……また、見殺しにするのか?)
雨の音が遠のく。
代わりに耳の奥で、風のような、土の中を這うような音がする。
(違う……違うだろ、リワン……!
あの日、私は誓ったじゃないか。
――“もう誰も見捨てない”って。)
胸の奥に何かが芽吹く感覚があった。
脈打つように、雨に濡れた地面がわずかに震える。
ルド・バルカスが刃を振りかざした瞬間、オケケは叫んだ。
「……私は……! 私の腕で、この街を生かすんだッ!」
その叫びと同時に、彼女の足元から蔓が勢いよく伸びた。
瓦礫の隙間から、街路樹の根元から、どこからともなく緑が噴き出す。
雨粒を弾き、夜闇に鮮やかな命の色を広げていく。
ルド・バルカスの脚に絡みついた蔓が、一瞬で締め上げた。
彼の巨体がバランスを崩し、驚愕の咆哮が雨に混じる。
「これは……!?」
オケケは力強く立ち上がる。傷だらけの身体に新たな力が流れ込むのを感じた。
両腕を広げると、周囲の壁面や路面からも無数の蔓が伸び、エイリアンの足を捕らえていく。
(これが……私の力……!
この街の命を借りて……奴らを止める……!)
オケケは踏み込み、緑の奔流に乗るように跳び上がった。
刃を振るおうとするルド・バルカスの腕を、太い根が絡め取る。
動きが鈍った隙に、オケケは回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ……!」
敵の巨体が横倒しに転がる。
瓦礫の山をなぎ倒し、街灯を粉砕しながら、地面を滑った。
オケケはすぐに追撃する。
蔓が敵の背後から伸び、刃の隙間に食い込み、身体を拘束する。
跳び上がったオケケの拳が、装甲のひびをさらに広げる。
「これが……私の戦いだ!」
雨と血と土の匂いが混ざる中、オケケの眼光は燃えていた。
街路に根を張った緑が、彼女の意志そのものとなり、戦場を支配していく。
ルド・バルカスは苦悶の声をあげながらも、刃で蔓を切ろうともがく。
しかしそのたびに、次の根が絡みつく。
オケケは再び拳を構え、全力で踏み込んだ。
「まだ倒れちゃ困るんだよ、私が走るまではな!」
力強い打撃がルド・バルカスの顔面を砕き、火花と血が夜を裂いた。
優勢――今、この瞬間、戦場は確かにオケケのものだった。




