優勢の終わり
瓦礫の雨に濡れた路地。
オケケは呼吸を荒げ、膝をつきかけながらも構えを解かなかった。
さっきまでの攻撃で、ルド・バルカスの装甲にはひびが入っている。
だがその巨体は揺るぎなく、黄金の瞳はかえって愉悦に輝いていた。
「……やるじゃないか、人間。久々に退屈しない。」
ルド・バルカスは肩を鳴らし、低い唸りをあげた。
刃の突起が震え、雨粒を弾くたびに青白い火花を散らす。
オケケは自分の肩から滴る血を押さえ、にやりと笑って見せた。
「まだだ……まだ、止まらない……!」
その言葉に、ルド・バルカスは一歩踏み出した。
路面がその重さに砕け、ひび割れが四方に走る。
オケケが視線を逸らさずに前をにらむ。
――だが、その動きは予想以上に速かった。
閃光。
刃が横薙ぎに襲いかかる。
オケケは咄嗟に腕で受けたが、鉄骨を折るような衝撃が骨まで響く。
足場を失った体が後方に弾かれ、街灯をなぎ倒して転がる。
「くっ……!」
歯を食いしばって立ち上がった瞬間、すでにルド・バルカスが眼前にいた。
その距離はほとんどゼロ。
彼の尾が真横から唸りをあげる。
防御は間に合わず、脇腹を抉るように衝撃が貫いた。
鋭い痛みと共に視界が暗転しかける。
だが次の攻撃はすでに来ていた。
刃が十字を描き、雨粒と血飛沫を同時に宙に舞わせる。
オケケは間一髪で後方へ跳んだが、ジャージの胸が裂け、皮膚に浅い傷が走った。
(まずい……流れを取り戻せない……!)
自分を鼓舞するが、ルド・バルカスの攻撃はさらに苛烈さを増す。
尾が路面を叩き、跳躍し、今度は頭上からの一撃。
オケケは転がって避けたが、瓦礫が飛び散り、足首をかすめる。
「さあ、もっと足掻け、走者!」
その挑発にオケケは歯を食いしばり、拳を握るが、
敵の動きは止まらない。
左からの爪、右からの刃、そして尾の横薙ぎ。
すべてを捌ききれず、肩口を切られ、膝をついた。
「ぐ……ああっ!」
肺が焼けつくように痛い。
血が地面に滴り、雨水で薄められた。
ルド・バルカスは獰猛な笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「さっきまでの勢いはどうした? 走るだけの獲物か?」
悔しさに唇を噛み、オケケはそれでも立ち上がろうとする。
だが脚が震える。
視界が二重にぶれ、瓦礫の街並みがぐらぐらと揺れる。
刹那、ルド・バルカスが爪を振り上げた。
オケケは腕を交差させて防御するが、強烈な衝撃で路面に叩き伏せられた。
空は暗く、雨は冷たい。
さっきまでの優位が遠い幻のように感じられる。
(……まだ……ここで……止まれない……)
だが現実は容赦なく、ルド・バルカスが勝者のように立ち尽くす。
戦況は完全に逆転し、彼の爪が次の一撃を待っていた。




