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走者を狩る影

雨に濡れたアブジャの街路を、オケケは全力で駆け抜けていた。

 呼吸は荒い。脇腹が痛む。それでも脚は止まらない。

 瓦礫を飛び越え、倒れた標識を踏み台にして加速する。

 背後で避難を終えた軍人が叫んだ。


「おい! 君はどこへ行くつもりだ!」


 オケケは振り返らずに答えた。


「行き先は決まってる! ――塔を越えた向こう、ミサイルだ!」


 遠くの空、そびえ立つエイリアンの塔が視界に入る。

 それは冷たく、どこまでも高く、黒雲を裂いていた。

 雨に煙る街の中、彼女の耳には通信機からの司令の声が届く。


『カードキーの保持を確認。施設は北西二キロ。遮蔽物を活用しろ、オケケ。』


「了解。」


 前方の角を曲がった瞬間、さらに二体のエイリアンが飛び出してきた。

 オケケは足を止めず、低く跳んで間を抜ける。

 尾が背中をかすめ、ジャージが裂けるが、傷は浅い。

 ビルの壁を蹴り、次の通りへ降り立った。


(大丈夫……私はまだ走れる……。エステバンのぶんまで……。)


 雨粒が頬を打つ。

 そこへ、まるで別世界からの視線が背筋を撫でた。

 オケケはとっさに足を止め、周囲を見回した。


 ――そのころ、遥か上空。

 四本の塔のうち一本、その塔の頂上にある指揮中枢で、ひとりのエイリアン指揮官が映像を見ていた。

 黄金の瞳が細まり、薄い笑みを浮かべる。


「また一匹、走り出したか。」


 モニターには、街路を駆けるオケケの姿が映し出されている。

 指揮官は尾をゆっくりと揺らし、隣の戦士に目を向けた。


「遊び相手を用意してやれ。〈ルド・バルカス〉を。」


 待機していた戦士が一歩前へ出る。

 その体格は他の兵士よりも大きく、肩から伸びる二枚の刃のような突起が雷光を反射する。

 深い声が、塔の内部に響いた。


「標的は?」


「映像を見ろ。南の街路を北西へ向かって走る女だ。捕らえるか、潰せ。」


 ルド・バルカスと呼ばれたネームドエイリアンは、一瞬だけモニターに目を向けた。

 オケケの姿を映す映像を確認し、無言で頷く。


「了解。」


 転送装置が起動する。

 床に刻まれた紋章が光り、空間が歪み、青白い稲光が閃いた。

 ルド・バルカスの輪郭が溶けるように消えていく。


 ――地上。

 オケケが走り抜けた先の通りの中央で、突然、光の柱が生じた。

 雨粒が弾かれ、空気が揺れる。

 オケケは思わず足を止め、身構えた。


 光の中から、異形のシルエットがゆっくりと姿を現す。

 双刃の突起、分厚い装甲、獣のような咆哮。

 そして黄金の瞳が、まっすぐオケケを見据えた。


「……お前が、次の走者か。」


 オケケは息を整え、汗と雨を拭うことなく、にやりと笑った。


「……邪魔なら、どきな。」


 ルド・バルカスは無言で刃を構える。

 雨音が、急に遠くなった気がした。


(……来る。今までの雑魚とは違う。

 でも、ここで止まれない……!)


 オケケは拳を握り、次の瞬間、地を蹴った。

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