風を裂く者
ナイジェリア・アブジャ。
夕闇の中、瓦礫と炎が交錯する市街地を、ひとつの影が駆け抜けていた。
黒い煙が空を覆い、遠くの塔が不気味な光を放っている。
耳をつんざく爆発音。車両が横倒しになり、道路には避難しきれなかった人々の持ち物が散乱していた。
その中を、彼女は迷いなく進んでいく。
「そこだ! 走れ、そっちの路地に!」
体育教師をしていた頃と変わらない、張りのある声。
リワン・オケケは瓦礫に足を取られそうな子供を抱きかかえ、即席の防衛ラインを突破させた。
額には汗、頬には埃。だがその瞳には迷いがない。
「大丈夫、私がついてる。走りな!」
子供たちが兵士の元へ渡ると、リワンはくるりと振り返った。
次の瞬間、路地の奥から不気味な咆哮が響く。
鋭い爪と光る鱗を持つエイリアンの群れが、彼女を見つけて走り出してくる。
息を整える間もない。
リワンはその場に立ち、両の手をぐっと握りしめた。
(エステバン……こっちも、始まるぞ……!)
遠くの通信機から、ノイズ交じりの報告が一瞬聞こえた。
『……ランナー・エステバン……反応……ロスト……』
その断片に、リワンは眉を寄せた。
嫌な予感が胸をよぎるが、今は立ち止まれない。
迫り来る怪物たちを前に、リワンは低く構えた。
「悪いな……ここから先は通さない。」
風が、彼女の足元でうねりを上げた。
次の瞬間、リワンは疾風となってエイリアンの群れへ突進した。
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