揺れる指令室
鳴り続ける警報と、モニターに走る赤いライン。
南米エリア統制拠点の司令室は、嵐のような緊迫に満ちていた。
大画面には、雨に煙る瓦礫の路地が映し出されている。
カメラの映像は乱れ、激しく揺れ、そして――唐突にノイズにまみれて途絶えた。
「……信号が途絶しました!」
「再接続を急げ、あのエリアに何人投入してると思ってる!」
オペレーターたちの声が飛び交う。
中央の指揮台に立つ壮年の男、作戦司令官ラモスが拳を握り締めた。
彼は画面を睨みつけ、唇を強く噛む。
「……エステバンからの生体反応はどうだ。」
「……モニター、ゼロです……脈、呼吸、温度、すべてロスト……。」
短く報告した若い兵の手は震えていた。
司令室の空気が重く沈む。
「そんな……」
「あいつは……あの力があったはずなのに……!」
別の幕僚が頭を抱える。
それでもラモスは目を逸らさず、スクリーンを睨み続けた。
モニターの隅に、エステバンが最後に立っていた場所の記録映像が繰り返し再生される。
そこには、尾に打ち据えられ、瓦礫に沈む青年の姿。
雨が血を流し、街を赤く染めていた。
「……これで、走者のひとりを失った……。」
ラモスはかすれた声で呟いた。
握り締めた拳の骨が軋む。
「まだだ……まだ六人いる。次を……繋げ。」
「……司令、目標のミサイル発射施設までのルートは……すでにエイリアンの制圧下です!」
「だろうな……だが行くしかない。」
ラモスは深く息を吐き、無線機を手に取る。
その手はわずかに震えていたが、声には迷いを乗せなかった。
「全ランナーへ告ぐ。エステバンは……消息を絶った。
だが、作戦は続行する。生きている者は……走れ。
止まるな。振り向くな。必ず辿り着け。」
司令室に再び怒号と指示が飛び交い、次の指令が各地へと走り出す。
雨に濡れたモニターの映像が、淡く瞬いた。