第八話
足利軍と合流した柳生一族は松永久秀が居なくなってもぬけの殻の信貴山城を難なくゲット。残るは松永久通の居る飯盛山城である。
飯盛山城は多層的な曲輪配置と地形も相まって防御力は高い。
宗矩たちはどう攻めるか悩んでいた。
「年寄りにはキツいのう」
ストーンボートは城攻めから降りた。
宗矩は一瞬黙考し、やがて低く呟いた。
「…策などいらんな‥ごり押し突破!」
若い衆が息を呑む。宗矩の眼に火が灯った。
「足利軍も居る。ごり押すぞ!」
その言葉に、兵たちの心に覚悟が芽生えた。
そして夜明け前、霧が谷間を覆う中、宗矩は兵たちを整列させた。飯盛山城の輪郭がうっすらと浮かぶ。石垣に張り付く松永久通の兵の影が、薄暗い霧の向こうでうごめいている。
「今日の勝敗は…間違いなく勝ち確だ‥」
宗矩の声は低く、しかし谷間に吸い込まれるように鋭かった。若い衆は顔を引き締め、手にした槍や刀の感触を確かめる。
突撃の号令が下りると、兵たちは一斉に駆け出した。岩肌を蹴り、急斜面を登る足音が谷に反響する。矢が飛び交い、松永久通の兵たちの叫びが混ざる。
宗矩は自ら先頭に立った。風を切る音、鎧が擦れる音、血の匂い、それらが一瞬にして戦場を満たす。心の奥でこれが柳生の力だと呟きながら、彼は城門へと迫った。
敵兵が何重にも防御線を張るが、足利軍と連携した突撃は徐々に突破口を開く。若い衆が倒れ、叫び、しかしさらに前へと進む。宗矩の目は冷たく光り、決して迷いを見せない。
ついに松永久通の姿が見えた。彼の眼にも驚きと警戒の色が走る。宗矩は息を整え、低く、しかし確信に満ちた声で言った。
「…松永久通!貴様はもうオワコンだ!」
突き進む宗矩の姿は、まるで戦神の如く谷間に映えた。
槍先が城門の鉄扉に届く寸前、宗矩は瞬時に足利軍の兵たちまで指揮し、左右からの突入を指示した。敵兵は二方向からの圧力に混乱し、矢を放つ手も乱れ、城内の秩序は崩れつつあった。
松永久通は必死に防戦したが、急斜面を駆け上がる兵の勢いに押され、次第に前線を守れなくなる。
槍、刀、手斧が混ざる乱戦の中、城門の鉄がついに軋み、ひび割れが走る。兵たちは力を振り絞り、一斉に押し込む。最後の抵抗が砕け、城門は崩れ落ちた。
城内に突入した柳生・足利の連合軍は、熟練の戦闘術で敵兵を圧倒する。松永久通は降伏を余儀なくされ、飯盛山城の支配権は完全に宗矩たちの手に落ちた。
宗矩は深呼吸ひとつ。周囲の若い衆たちは疲労と安堵、そして戦の興奮が入り混じった表情を見せる。霧が晴れ、朝日が城壁を金色に染める。
「これで飯盛山も手に入った…。」
低く呟いたその声に、戦場の静けさが応えた。戦いは終わった。勝利は、正面突破という決断と覚悟、そして連携の勝利だった。
宗矩は城壁に立ち、遠くの山々を見つめる。次なる戦いが、すぐそこに待っていることを知りながらも、この勝利の余韻を静かに噛み締めた。