第七話
足利義輝。室町幕府第十三代将軍。
塚原卜伝から剣術を学んだ剣豪将軍。
最近は各地の松永軍の爆弾テロの警戒を強化していた。
「この辺に松永の軍が来なかったか?」
ストーンボートは返答に迷った。
が、宗冬はあっさりと地下牢にぶちこんであることを伝えた。
義輝は頷いた。
「そうか。案内せよ」
かすかに笑った宗冬は、地下への階段を下りながら言った。
「ところで…恩賞は‥?」
「そうだな。何かやってもいいぞ」
宗冬、畳み掛ける。
「では‥一族の誰かを関東管領にしていただきたいのですが‥」
「ムリ」
「では政所執事に‥」
「ムリムリ」
「では評定人に‥」
「ふざけるな」
地下牢の扉がきしんだ。
中にいたのは、松永久秀。
「…将軍。爆弾で吹っ飛ばしてやれなかったのが心残りです‥」
義輝は静かに刀を抜いた。
足が、一歩、牢内へと踏み込んだ。
松永は鉄の枷に繋がれながらも、なお背筋を伸ばしていた。
その瞳に宿るのは、恐怖ではない。
「久秀……お前は、何故そこまで爆ぜたがる」
義輝の問いは静かだった。
久秀は、笑った。
歯の隙間から血が滲むその笑みは、まるで自分が勝者であるかのよう。
「……世を、統べるのに刀では遅すぎる。将軍、貴殿も気づいているだろう。室町幕府オワコンと‥」
「戯言を」
義輝の刃が、すでに半月を描いていた。
だが、斬らない。
その切先は、久秀の喉元で静止したまま。
宗冬が、思わず声を呑む。
久秀はなおも語った。
「なあ、将軍。いっそこの国を、お前とふたりで燃やさぬか? すべて吹き飛ばしてやろう。そうすれば、有名人になれる」
義輝の目が細められた。
「貴様……本気か?」
「爆弾に嘘はない」
義輝の瞳に、かすかな光が宿る。
だが、それは賛同の兆しではなかった。
次の瞬間、刃が走る。
音はしなかった。
久秀の首が、静かに床に転がる。
宗冬が呆然とする中、義輝は血を拭い、刀を鞘に収めた。
「余は刀でやるのが好きなんだ」
彼の背に、沈黙がついてくる。
闇の中、将軍の影だけが、確かに歩みを刻んでいた。
爆弾よりも剣術が好き。
そういう男だった。足利義輝は。
その頃、松永久秀の子、松永久通はおやじ帰るの遅いなぁと思っていた。