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第一話
1616年4月。
柳生宗矩、妙にソワソワしていた。茶を点てる手が震える。
「なにかがおかしい…」
しかし、心の奥に、熱い渇望が芽吹いていた。
天下‥そう、天下を取りたい。今すぐ。なんなら昼飯の前に。
理由など要らぬ。戦国という病は、理屈を許さないのだ。
鶯が鳴く。春である。
「よし、なるべくたくさん斬ろう」
論など屑。欲とは常に非論理の淵より這い出でるもの。
柳生宗矩は朝から変だった。
「今なら全て上手くいく気がするんだが。‥そうだな‥まず松永を殺ろう」
かくして、柳生宗矩は、納豆の代わりに天下をかき混ぜることにした。