Yちゃんの富士登山日記
まだまだ投稿したい小説があるのですが、打ち込む時間がなかなか取れず、今回はあざとい動物ネタの独り言を…。
私の実家で飼っている、トイプードルのYちゃん。
元々大柄な男の子で、連れて来た仔犬の頃が4kg。ブリーダーさんには、6kgぐらいにはなるかもね…と言われました。もうすぐ7歳で、ワンコとしては中年。高齢の母が世話しているので運動不足の上、マットの上でオシッコできたらおやつ、朝新聞を受け取って家に運び込んではおやつ、ラジオ体操に行くおじさまおばさまにご挨拶してはおやつをもらい、お散歩の犬友達が訪ねて来ては一緒におやつを食べ…等々しているうちに、あっという間に8kg超え。去勢手術の影響もあるとかで、お腹タポタポで首にも襟巻きができています。
お前はもうトイじゃない! 二桁にだけはなるんじゃないぞ…と、私は言い聞かせるだけでしたが、Yちゃんを見つけて実家に送り込んだウチのダンナは責任を感じ、「運動させなきゃ!」と常々言っておりました。
私はまるっきりの運動音痴なんですけどね。小学生の頃から、走ればビリッけつ、平衡感覚もない、逆上がりのできないトロ子でございます。
どういう巡り合わせか、ダンナは趣味のマラソンランナー。Yちゃん(…と、多分私も)と一緒に走りたくて、ウズウズしている様子。
私達の結婚記念レースが富士山でして、富士吉田の市役所前からスタートして、ゴールが山頂という、私に言わせればクレイジーなレース。毎年、ダンナが練習に行くのに車を出して、私は移動給水車としてサポートに徹しておりました。
それが、今年!
ダンナがYちゃんを連れて行くと言い出しました。
ちょっと心配はしてましたけどね。
登山道の入り口に、お猿の道祖神像みたいなものが立っていて、「犬猿の仲と言うけれど、犬が登っても良いのかなぁ」…とのこと。
当日、Yちゃんは大はしゃぎ。お出かけ大好きっ子だし、私の車は彼の安全地帯みたいで、いつでも乗りたくて仕方ないようです。夫婦で外に出て、車を出したり荷物を積み込んだりしていたところ、「兄ちゃん姉ちゃんがボクを置いてっちゃった!」と言わんばかりに、家の中で大騒ぎしていたとのこと。私がドアを開けると、「ボクも行くー」と飛びついてきました。
ズッシリ重いYちゃんを、抱っこで車へ。ダンナの運転で、いざ出発。
Yちゃんはお鼻濡れ濡れ、お目々キラキラで、とても満足そうです。のんびり寝そべったり、景色を見たり、空気の匂いを嗅いだり、気ままに過ごしていました。
富士吉田の、市役所隣のコンビニに車を停め、ダンナは支度してそこから自走。行ってらっしゃい、と見送って、私とYちゃんはコンビニで道中必要な物を仕入れ、移動給水スタート。
浅間神社では、車を降りてトイレを済ませ、犬好きのおばさまに可愛がって頂き、大得意で辺りを走り回っているうちに、ダンナが到着。
また行ってらっしゃいをして、しばらくして車に乗り込み、途中ダンナを追い越して中ノ茶屋へ。
ここまで来れば、下は肉球に優しい土と草。車を降りてお散歩も、楽しそうです。少し胸焼けがするのか、Yちゃんは夢中で草を噛んでいました。
富士山の草は美味しいか?
遊ぶだけ遊んで、Yちゃんは車に戻り、後部座席を独り占めして一休み。そうこうするうちにダンナが到着し、「なんだ、降りないの?」。
いや、降りて遊んでたんだって。
行ってらっしゃいをしたら、次は馬返し。
Yちゃんはここでも草を噛み、あっちをクンクン、こっちをクンクン。
野生動物の匂いも、したんだろうなぁ。
また、車に戻って休んでいるうちに、ダンナが到着。
給水後、今度は私とYちゃんも一緒に、馬返しのお茶屋さんまで上がります。毎年立ち寄るので、ご主人は顔見知り。Yちゃんは初めてなのでご挨拶して、ダンナが「この子を連れて三合目ぐらいまで行こうと思って」と言うと、お茶屋のご主人が「行っといで、行っといで」。
あー、犬が登っても良いんだ。
それはともかく、三合目…? え、私も? 聞いてない!
いや、Yちゃんを連れて行くとは言ってたけどさ。
Yちゃんは大喜びで、山道を登って行きます。
何を感じたのか、ふとYちゃんが足を止め、道脇を見上げました。何を見ているのかと思ったら、ダンナの言っていたお猿の石像です。
「ボク、登っても良い、って、お猿の神様に訊いてごらん」と私が声をかけると、お許しが出たのか、Yちゃんはトコトコ登り始めました。
Yちゃん早いよ!
私は日頃の運動不足に加え、このところ忙しくてロクに休めず、体調もあまり良くありません。
ウチのトレイルランナーが、自分が連れて行く、とYちゃんのリードを引き受けます。
後から聞いた話だと、Yちゃんはトレイルランナーさん達と同じように、最小限の労力で早く進める起伏の少ないコース取りで、駆け登っていたとか。ダンナ曰く、「四輪駆動だから滑らないし、早い早い」。
私は後からえっちらおっちら、亀の歩みで登って行きます。多分、コース取りは同じだったと思いますが、私の場合は足が上がらず、障害物をまたぎ超えられないから。
ところが、さすが忠実な動物と言われる犬です、Yちゃんは少し駆け登っては、「姉ちゃんが来ない!」と足を止め、私が追い付くまで振り向いて待っています。
まあダンナは、ロクに練習にならなかったろうな…。
一合目を過ぎてしばらく行った辺りで、私の苦戦ぶりをダンナが見かね、「二合目までにしようか」と言ってくれました。
「そうだね、もう足が上がらないよ」と私が言うと、「足は上がらないけど息が上がってる」と、余計なこともほざいていましたが…。
とりあえず、二合目までは、えっちらおっちら。
先に着いたダンナとYちゃんが待っています。
ダンナはまだ、走り足りない様子。Yちゃんはハァハァしているものの、もっと上まででも行けそうです。
でも、最善の道は…。
「私、Yちゃんとゆっくり下りてるから、もうちょっと上まで走ってきたら?」
ダンナは意気揚々と走って行きました。
Yちゃんは、早く安全地帯の車に戻りたいのか、これも勢い良く山道を駆け下ろうとします。
「待って、待って! そんなペースでこの道下りたら、姉ちゃん転んで怪我しちゃう。Yちゃん、ゆっくりね、ゆっくりだよ!」
ダンナと駆け上がっている時も、何度か登山者やトレイルランナーに出会い、「可愛い」と言われていたようですが、下りでもいろんな人と行き交います。
「お散歩? 凄いねー」とか「可愛いー」とか。褒め言葉なのは分かっていて、犬は大得意。
途中、子供さん達も含む登山者の団体に出会いました。ご挨拶の後、ワンコがまた走ろうとするので、思わず声が漏れてしまいました。
「もう、この子のペースに、私がついて行けない!」
笑われてしまいましたが、子供さん達はワンコの方に興味津々。
子「名前、何ていうの?」
私「Yちゃん」
子「Yちゃんガンバレ!」
一緒に居た大人の方が、すかさず言います。
「いや、頑張ってるのは、Yちゃんじゃなくてオバチャンの方だから」
へいへい、その通りでございます。
その後も、犬に引っ張られて山下り。
途中で案の定、小石に足を取られて尻餅。怪我はなかったのですが、手をついた拍子に五十肩が痛んで悶絶。Yちゃんはキョトンとしています。
何とか立って、また山下り。
馬返しの手前で、上まで行って駆け下りてきたダンナに追い付かれ、揃ってお茶屋さんで休憩です。
ダンナはランナー定番のコーラを飲み、私はいつものコーヒー。
Yちゃんが、小鳥の水盤を覗き込んでいたので、この子も喉が渇いているのかな…と、持参のお水をあげましたが、ペロッと少し舐めただけ。
お茶屋さんでは、六合目ぐらいまでは余裕で登るという、3歳の柴犬ちゃんに会いました。
あー、他にも登る子いるんじゃん。
柴犬ちゃんは遊びたくて寄ってきましたが、Yちゃんはどうした訳か日本犬嫌い。人間には愛想が良いのに、柴犬ちゃんにはブサ顔で「ウー!」と邪険です。
ゴメンね、仲良くしたかっただけだよね。きっと、オジ犬には若い子の相手が無理なんだよ。
ワンコ会は終了し、車へ。
帰りは道の駅に寄って、まずお水汲みです。
ダンナが持参のタンクを満たしている間に、私は空いたペットボトルに帰りの飲み水を汲みます。車にタンクを積み込んで、ペットボトルからまず一口…と私が飲んでいると、Yちゃんが腕を引っ張ります。
お水欲しいの?
お皿に入れてあげたら、さっきはロクに飲まなかったのに、今度はガブ飲み。
富士山の天然水は美味しいか。
道の駅では、ワンコ用の鹿肉ジャーキーも売っています。Yちゃんとお友達へのお土産にジャーキーを買い込み、実家の母から頼まれた、近所の動物病院へのお土産のお菓子を買い、野菜やら卵やらも買い込んで、私の実家へ。
さすがに疲れたのか、Yちゃんは寝そべってウトウトしていますが、まだ興奮しているようで、すぐに起きては景色を見たり、買ってきたジャーキーをねだったり、私やダンナに甘えてみたり。
まあ、ご機嫌な様子で、良かったこと。
家に帰ると、Yちゃんはまた富士山の天然水をガブ飲みし、お腹が空いた、とお母さんにゴハンを出してもらっています。ダンナは早速、走った後のビール。Yちゃんは自分のゴハンをペロリと平らげ、次は母がダンナに出してくれたおつまみをおねだり。
せっかく運動してきたんだから、あんまり食べるな!
食事の後は、Yちゃんはほとんど寝ていましたが、私達が帰る時は、帰っちゃ駄目とかまた車に乗るんだとか、起きて大騒ぎでした。
後で電話すると、その日は夕のお散歩にも「行かなーい」と寝ていたとか。
Yちゃんは翌日、動物病院で予防注射とトリミングだったそうです。だから、動物病院にお土産ね。
私は翌日、筋肉痛だったぞ。お前は大丈夫だったか?
以上、ほんの馬返しから二合目ですが、Yちゃんの富士登山日記でした。
…ちなみにYちゃんは、既に10kgを超えていたようで、トリミング後、9kg台に「減ってたわよー」と言われたそうです。