★厭世
突然現れて自分の職場を破壊した彼女は、なぜか自分のことを好いていて、夫婦になろうと提案してくる。
世界を壊しに来た。という彼女は色々な建物を破壊する日常を送る中で、怖くなった自分は彼女から逃げるように家を飛び出すが、外で高校生3人組と鉢合わせる。そこで暴行とともに尋問され、高い所から落とされ、自分の死を感じ取っていく。
体中が悲鳴を上げる。
しかし、指すら動かせない。
自分の周りからは血だまりが広がっていく。
意識にもやがかかり視界が白くなる。
体全体がひしゃげて壊れるような痛みを感じるが、思考は白く夢を見ているようだった。
視界の端に駆け寄ってくる影が見える。
「何してるの!」
「だってこいつが!」
「ちょっと待って!はい、わかりました。ここは神社です。」
「解決したって。拘束は無理だったみたいだけど。」
朦朧とする意識の中、その言葉だけははっきり聞こえた。
彼女は、死んだのか。
重苦しい体がより一層重くなった。
俺は、自分の人生は悲劇で、辛く苦しいものだと考えていた。
しかし、彼女といた数日間は何よりも充実していた。
彼女は何であったにせよ自分の救いではなかったのか。
手を動かす、ほとんど動かない。
体全体が震えている。血が抜けほとんど止まった体を生かそうとしているのか。
ふわふわした思考の中で黒い塊のような思考で埋め尽くされる。
俺はきっとここで死ぬ。
こんな奴らに全てを奪われて、彼女にも、もう会えない。
ぼそぼそと高い声で何かを言われている。喚くな、煩い。
いつの間にか体をずるずると起こしていた。
がくがくと震えながら体を起こす。
非現実的なことに囲まれて、結局何も何もわからず殺される。
俺が彼女と一緒にいる覚悟を決めていたら、きっとこんな結末は起こり得なかった。
この現実に向き合っていたなら、きっとこの展開を回避できた。
思えば、自分は自分の人生を遠巻きに見つめていただけだった。
俺の人生は奪われてばっかだ。
なんで、ここで命すら奪われなきゃいけないんだ。
ふざけるな。
前に足を出すことも難しい。
口を開く、泡と血が大量に漏れる。言葉にしては弱弱しく、それでいてとめどなく溢れた。
自分が発したのは、命乞いでも、彼女に対してでもなく、厭世の言葉だった。
「お前は、お前だぢはいいよな…未来に希望が持てて。」
俺が苦しんで、苦しんで、苦しみぬいた果てがこの地獄だ。
なんで、俺はこんなに苦しいのに、こいつらは幸せに暮らしていけるんだ。
砂埃と血と涙でぐしゃぐしゃになった顔を向ける。
片目は開かず、もう片方も輪郭がわかるだけになっていた。
ふざけるなよ。何もかも奪いやがって、
何にもない俺から最後の希望すら奪っていって。
ーーーーなあ睦月、結局うまく生きれた奴、要領がいいやつがなんでも得するんだ。
「俺だって!うまく生きれてたら。」
口元や傷口からドボドボと血が流れていく。
ーーーーねえ。あおい。どこかで死んでくれない。
コンクリートに滴り落ち、視界が赤黒く染まっていく。
「自分が恵まれてることすら知らないくせに。」
泣き声に混じった怒号のようなそれをとめどなく浴びせていた。
ーーーー頑張ってそれなら、お前の人生全部馬鹿みたいじゃん。
痛い。糞が、なんで俺なんだ。
自分でも何を喚いてるのかわからない。
それでも目の前の子供に対して喚き続けた。
他人に何でできないのかと言われるたびに来る自己嫌悪を。
諦め続けて、妥協して、結局何もできなかった苦しみを。
なんにも為せず何もせず、いつまでも愚痴をつぶやくだけだった自分の人生を。
なんで俺が死ななきゃならない。
死ぬべきなのは、俺じゃない。
彼女に言われたときは恐怖を感じた。しかし、自分自身がこの世界に怒りを感じていた。
顔を前に向ける。今にも崩れそうだ。
目はもうほとんど見えてない。
涙も血も止んだかのように錯覚した。
就活、学校、生活、環境、誰かに愛されていたら、違ったのだろうか。
きっと普通に生きれたのなら、こんな失意も絶望も持たなかったのではないか。
がくがくと揺れ動くからだを引きづるように前に出る。
「俺はお前らみたいに才能も愛も生き方もない。」
歯を食いしばる。ほとんど体の自由は聞かない。もうこれは助からない。
きっと動けてるだけでも奇跡だろう。
動く方の片足を前に出す。体中が悲鳴を上げる。
今までの死んだような日々に別れを告げる。
最後は自分の人生に、彼女のために使う。
何を言ったって、できるやつにはわからない。
だから馬鹿にされて、蔑まれてきた。なら、俺の場所まで叩き落してやる。
ボロボロと崩れ落ちそうな体で一歩一歩進む。
ゴミみたいな、糞みたいな人生だった。
だからせめて
血を吹き出す。口から泡が出る。体が重い。
叫び出したいほどの痛みが全身から聞こえてくる。
それ以上に、世界が憎い。
「来いよ。」
ほとんど見えてない片目で前を見る。
「ここからは、道連れだ。」