後悔人生
「もう一度聞きます。」
「彼女とはどこで会いましたか。」
自分は口を堅く閉ざしたが、
またあの足が飛んできそうで、体を震わしつつ、
アスファルトをみながら答えた。
「急に家に来たんです。」
「お前!」横から鋭い痛みが走り横に転がる。
蹴られた横腹は叫び出したいほど鈍く傷んだ。
こんなのあんまりじゃないか。
手を使いなんとか体を持ち上げる。
女は耳に手を当てて何かを話す。
話終わるとこちらを一瞥し、
「彼女と一緒に来てもらいます。」
「ちょっと、待ってください!」
自分は手を前に出し、膝を上げる。
一歩一歩3人が近づいて来る。
自分は後ろに下がり、ふらふらと立ちあがろうとする。
しかし、金髪の男に殴られ、後ろ手に組み伏せられる。
どんと自分の地面に叩きつけられ鼻を強打する。
ドッと心臓の音が鳴るにつれて、ぼたぼたと血がアスファルトを赤黒い水滴をつくる。
「待ってください!俺は!俺は違うんです。」
違うんです!と縋るように叫ぶ。
そこで気づいた。自分は何を今まで考えていたのだろう。
会社から逃げて、彼女からも逃げて、
自分は一体何がしたかったのかわからなかった。
「こっちは確保、そっちも」
と話すのが聞こえ、
「待ってくれ!」
「彼女は人を殺さない!!だから!」
地面にまた叩きつけられ、鼻と歯が嫌な音をたてた。
次の瞬間大きく地面が揺れた、
金属音がかすかに響き、
自分も含め全員が一定の方向に顔を向けた。
その瞬間、一人が焦り、
しきりに向こう側に応答を呼び掛けている。
彼女は逃げられただろうか。
ズキズキと痛む腹部を抑えて、女をみる。
苦い顔をしながら、応答してと繰り返す彼女はこちらをみて、血相を変えて叫ぶ。
「彼女を止めなさい!」
その瞬間に後ろから男も叫ぶ。
「止めさせろ!」
腕を強く持たれ!骨が割れそうな痛みに呻き声がでる。
強く頭を殴られ頭に高い音が響く。
もう一つの影が正面から伸びる。
ローファーが見えたかと思えば、
顎に衝撃が来て黒い空が眼下に広がる。
殴られた顔はボロボロになり、
歯が欠け口に異物と血の感触がした。
「弱点はなに!どうすれば止まるの!」
叫ぶ女。
身体中の痛みに耐えかねて口から嗚咽と血を漏らす。
俺は、彼女の元に戻らなければ。
きっと彼女は約束を守ろうとするだろう。
背中を蹴飛ばされ、倒れ込む。
「おい!おい!早く言えよ!」
力強い暴力に歯を食いしばって耐えている。
手を頭にかぶせ、いつの間にか目から涙がにじむ。
骨が何本か折れているのが体の熱さと気絶しそうな分かった。
上手く呼吸ができなず、あえいぎながら凌ぐ。
自分はいつもこうだった。
頭の隅にはいつも危機感はあっても追い込まれないと動かない。
もっと早く彼女と一緒に逃げていれば。
もっとよく話していれば。
彼女の求婚に対して流されることなく断っていたら。
きっとこんなことにはなっていないだろう。
何にか大きな影が自分の上に掲げられ振り下ろされる。
静かだった神社からは、叫び声と怒号、自分自身の泣き声が聞こえる。
手を挙げて守ろうとするが鈍い音がして、叫び声をあげる。
熱く、震えていた。
神様、神様、これはないだろ。
人生は不平等で、成長も努力の価値も成功までの道のりだって違う。
自分は能力もないのにそれを変える努力もせず、常に逃げてきた。
それでも、
それでも俺だって必死に苦しんできた。
この胸の内からくる苦しみに耐え忍んできた。
こんなところで終わりなのか。
こんなゴミみたいに。
一体俺は何のために生きてきたのだろう。
思い返すと、他人にはいつも迷惑をかけていた。
最初から生きてる価値なんてなかったんだ。
腕を肩に乗せられ引きずられていく。
草木の地面からコンクリートに変わったと思えば、6m下の地面が見えた。
「早く言えよ!たけるの命がかかってんだよ!」
俺は浅い呼吸を繰り返し、涙を流しながら金髪を見る。
その瞬間、体が宙に浮いた。