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決別

はっとして彼女を見ると不思議そうに頭を傾げた。

「ごめんなさい。どういうことですか?」

彼女が聞き返す。

「その、自分は本当は。」

言いかけて言葉が出なかった。

街灯から照らされた光は自分の膝と手に影を落としている。

彼女の顔を見ることができない。

「あおいさん。」

向こうから優しげで活発な声が聞こえた。

「帰りましょうか。」

答えられずしばしの沈黙が流れると、ゆっくりと彼女は自分の腰に手を回し抱き着いてくる。

「大丈夫です。少しづつで大丈夫ですから、あなたが考えてること教えてください。」

俺が勝手に期待しただけだった。

彼女は俺を救ってくれた天使ではなく世界を破壊しに来た悪魔だということを自覚しなければならない。

それでも、あまりにも効率的に破壊行為をする彼女に対して恐ろしくなった。

このままだと日本中を逃げ隠れし、いつか捕まってしまうのではないか。

もしくは彼女は本当の意味で世界を壊すのではないか。

厭な妄想ばかりが頭に浮かんでくる。

しかし、いつまでもここにはいられない。

警察が来てどこかのカメラを見られたら、きっとばれてしまう。

「帰ろう。」彼女の腕に手を添えて体から話す。

暗闇に一歩踏み出し。彼女の方を見た。

彼女はいつもの笑顔で頷いた。

駅を過ぎて歩いて行く際に、急に彼女が伝えてきた。

「もしかして、力がないから怖かったんですかね。」

自分は答えない。

「安心してください。一緒にいればいるほど、私の能力はあなたに渡ってきます。」

感覚でわかるんです。と彼女は微笑む。

自分はそれを聞いても何も答えられなかった。


帰ってきてからは彼女が料理を振る舞うと意気込んでいる彼女に対して、

自分は散歩に行くと伝える。

心配です。という彼女にすぐ戻ると伝えて玄関に向かう。

革靴を履きスーツのまま外に出る。

ただ少し一人で落ち着きたかった。

街灯の有る大通りを曲がり暗がりをあてもなく進む。

歩みもおぼつかなかず、いつのまにか頭に手を当ててしゃがみ込む。

辞めさせるべきだった。

もっと小さい所からだと提案すべきか。

いや二人の生活が慎ましくでも続けられるように話すべきだった。

というかそもそもの認識がまったく甘かった。

彼女ははっきりと言ってくれたのに自分はずっと遠目に見ていたような感覚だった。

後悔と自責の念が足かせになって足取りを遅くしていく。

帰らなければ。彼女が心配する。

彼女が作ってくれたご飯を食べて、洗い物は自分がして、

少ししたらしっかりと話そう。

来た道を引き返していく。

大通りに戻ろうとしたところで制服を着た三人組が見えた。

夜も遅く学生が歩くような時間帯ではない。補導されないだろうか。

道をふさぐように歩いているため右側に寄せてすれ違おうとする。

家一軒ほどのところまで来た時、三人ともこちらをじっと見ていることに気づく。

ぎょっとして立ち止まる。

左の女性が睨んだような顔で口を開く。

「あなた、睦月あおいさんですね。」

「あなたにいくつか聞きたいことがーーー。」

聞き終わる前に身を翻して三人に背を向けて走り出していた。

誰だ。逃げ切れるか。どうにかして彼女のもとへ。

背後から怒号が聞こえ、足音が聞こえる。

逃げなければ。こんなところで終わるわけには。

細道を抜けて塀をよじ登り他人の敷地に侵入し一心不乱に逃げていく。

運動をほとんどしていないため呼吸がつらく横腹が痛む。

どこかに身を隠せるところはないかと思案する。

近くに神社がある。そこなら、そこなら一時的に身を隠せる。

4つほど民家を抜けて森の近くの神社が見えた。

ゾッとするほど青いコンクリートの中走っていく。

目の前まで来ると階段を重く一段一段駆け上がろうとする。

やっと上り切り身を隠そうと思ったところで、急に体が後ろに落ちる。

肩を掴まれて落とされ土の地面に打ち付けられる。

「おい、逃げんなよ。」

若い金髪で制服姿の男に見下ろされる。

耳にはピアスが見える。

「動くなよ。」そのまま足を自分の腹に落とされる。

痛みの衝撃で鈍い声を出す。

ピアスの男はこちらを見下すような顔で誰かを待っている。

少しして息を切らしながら5人の影が近づいてくる。

足をどかそうと両手に力を込める。

踏み抜かれるように足を振り下ろされそれは叶わなかった。

奥歯をかみしめ苦悶の声が出る。

「睦月さん。」

近づいてきた先ほどの女が声を上げる。

「何をするつもりですか。」

「こんなに被害を出して何が目的なんですか。」

少しの沈黙の後、何を言おうか言葉を考えていると、

「言えよ。」鈍い音がして腹を圧迫してくる。

自分は苦しさにあえぎながら抑えられた腹を見ていた。

スーツはところどころが土色にかわり、皺もたくさん付けられていた。

「俺もわかり、ません。」

潰れた声で答える。

もう限界とばかりに足を手で叩く。

足がどいた瞬間に横を向き、

咳と嗚咽を吐き出して腹を抱えた。

3つの影が自分を取り囲むように立っていた。

また、女の声がする。

「じゃあ、彼女はどこであったんですか。」

心臓が跳ねる。自分は今、尋問されているのだ。


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