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デート

前回までのあらすじ

生きているような死んでいるような日々を過ごしてきた睦月は、いきなり美少女が家に押しかけてくる。

職場までついてきた彼女はあなたを救いに来たと言い、勤めていたビルを爆破する。

驚いた睦月に対し彼女は求婚を申し込む。

部屋に帰り得体のしれない彼女は睦月に泣きすがり睦月はそれを承諾する。



先ほどの爆発の被害と安否が気になり、リモコンでテレビをつける。

画面いっぱいにラーメンが映り誰かが楽しそうに食べている。

チャンネルを変えようとするが、嫌な汗が出てリモコンを机に置きなおす。

彼女は興味深く画面を見つめている。

狭い部屋の中でテレビから聞こえる声だけが響く。

彼女はいったい何なんだろうか。どこからきて何者でなんでこの力を持ってるのだろうか。

先ほどの爆発の衝撃と同期や知り合いの安否、求婚されたという事実。

頭がいっぱいになりうまく考えられなくなる。


彼女と自分が落ち着いたころにゆっくりと問いかける。

「君はどこからここにきて、ほかにはどんな力があるんですか?」


こっちにからだを向けて向かい合う。

「確かに、それを伝えないとですよね。」

んーと言いかけて何か思いついたように笑う

「でも、どうせならクイズにしましょう。」

「今から、デートに行きませんか。」

「その間にあててみてください。」

彼女は不敵に笑う。

何の狙いがあるのだろう。


初夏といえども昼を過ぎるとだいぶ暑くなり、歩いていると額に汗がにじんでくる。

彼女は汗一つかくことなく少し前を進んでいく。

明るい石畳を彼女は軽やかに進む。携帯の電源は消した。

出勤時間を過ぎた電車は座れるほど空いていて、人がいない電車はこんなに広いのかと少し驚いた。

彼女を椅子に誘導し、自分も恐る恐る隣に座る。

目的地は遊園地といっていた。

電車を降りて目的地まで歩を進める。

教えた改札の通り方もスムーズに通れるようになっている。

改札を出て大通りにつきまたクイズが始まる。

「第二問!私の好きな食べ物は何でしょうか?」

「えと…質問の内容こっちで決めていいですか?」

いいですよ、なんでもどうぞと言われたので、聞きたいことを一つ一つ聞く。

「いままでどこにいたかとかはどうですか?」


入場券を買い中に入る。

遊園地なんて子供のころに行ったとき以来で少し緊張してしまう。

横の彼女は何もかも初めて見た子供のように目を輝かせている。

平日にも関わらず人が多くにぎわいあちこちから笑い声が響く。

彼女は携帯を見せてここから回りましょうと提案してくる。


結局クイズではほんの少ししか情報がわからなかった。

わかったことは彼女自身もどこから来たのかはわからない。

いままで秋葉原駅近くの家にいて、女の人と一緒にいた。

年は正確にはわからないが、7か月くらいといっていた。

そして名前がない。

とても現実とは思えないような話を受けてうろたえた様子を感じ取ったのか微笑みかけてくる。

「だから、あなたがつけてください。」


名無しの彼女はどこに行っても楽しそうで、手を引かれるたびに小さい子供を相手にしているように感じた。

どこにでもあるような小さなお化け屋敷、

大人には乗りづらいメリーゴーランド、

絶叫系とよばれるような落下型のアトラクションを抜けて、いつしか空が夕景に染まりきったころ、休憩をしようと彼女に持ち掛けた。

白いアンティーク調の椅子に彼女を座らせ、売店に並ぶ。

そういえば飲み物は何が欲しいか聞いてなかったことを思い出し、彼女のほうを向く。

彼女は指を机に沿わせながらそばに生えている植栽をじっと見つめていた。

夕景の色合いも相まって絵画のように美しく見えるその横顔に見惚れてしまう。

声を出して呼ぼうとしたが名前を持ってないことに気づきやめる。

また並びなおさなければいけないなと思いながら列を外れたとき、ふと自分がこの状況を楽しんでいることに気づく。

いつのまにか得体の知れなかった生物を一緒に遊園地を回る彼女として認識していた。

よく笑ってくれてエスコートもしてくれる自分にはもったいないくらいの彼女。

しかし、まだあの時感じた異質な恐怖感が残っている。

それにビルの被害も目を背けたままではいられない。

一歩一歩彼女のもとへ歩いていく、机に近づいたとき彼女がこちらを向く

目が合った瞬間にぱっと笑顔になり

「どうしました?」

と言葉を発する。

自分はきっと彼女にどうしようもなく惹かれているのだろう。


休憩を終えて歩き始める。

日が沈み始めた空は涼しさを感じさせる。照明の光が目立ち始め、人影も少なくなっていく。

日が暮れたからもう帰ろうかと彼女に問いかけた。

彼女はあれだけのってもいいですかと手を引かれ観覧車の待機列に並んだ。

向かい合って座りゆっくり揺れながら観覧車が動く

少しづつ地面が遠のく、彼女はずっと透明な壁から地面を覗いていた。

最初の一言は自分からだった。

「今日はありがとう。こんなに楽しい日は久々でした。」

「私もです。隣に行ってもいいですか?」

彼女が立ち上がりシート座席の隣に腰掛ける。

床はキーという音を鳴らし、少しこちら側に傾いたように見えた。

「まだ怖いですか?」

彼女が問いかける。

「大丈夫ですよ。私が守ります。」

肩をこちらに寄せてくる。

「怖くないですよ。あなたのおかげです。」

「それで、さっきのクイズの続きをしませんか。」

彼女はコクリと頷く。

「お題は、あなたがこれからどうしたいか。」

「自分の力を生かせる場所に就職するとか。例えば自衛隊とか?」

彼女は首を横に振る。

「じゃあ…専業主婦として俺と家庭を守る。」

「半分は正解です。一緒にくらしましょうね。」

もう半分と彼女は上機嫌に回答を急かしてくる。

観覧車は搭乗口まで3分の1を切っていた。

スポーツ、福祉支援、世界旅行、いくつかの回答を間違い地面が近づく。

搭乗口付近で男性がこちらを誘導しているのが見える。

出口から彼女をエスコ-トしながら降りていく

帰りの通路まで手を放すことなくつなげていた自分はまた思案してみる。

自分のつぶやきから選択肢が浮かぶ、冗談交じりに伝えてみる。

「せ、世界征服とか…?」 

一瞬の静寂のあとにさすがに違うと言いかけたが、

「んーと、まぁ正解です!」無邪気に笑い自分に飛びつく。

「一緒に叶えましょうね!」


移動販売もやっておらず、アトラクションの周りに人がちらちらと見えるだけとなっている。

手をいつのまにか握られ、手をつなぎながら出口に向かう。

「ほんとの正解は征服じゃないんです。」

「え?」

周りが暗く顔が見えない。

「私はこの世界を壊しに来ました。」

足を止める。それに伴い彼女も立ち止まる。

「本当はすぐにでも始めたいですが、今日は結婚記念日ということでやめときました。」

顔は見えない。彼女は続ける。

「誰にもわからないと思ってたんです。でもあなたのつぶやきは違ってました。」

「壊れてしまえばいいってつぶやき。この人は私と同じだって思って」

「その時から私はこうなることを望んでました。」

握られている手を上げて両手でつかまれる。

言葉が出ない。

「夫婦は一蓮托生だと聞きました!だから一緒に助け合っていきましょうね。」

目が慣れてくる。彼女の心底嬉しそうな顔が見える。

自分は今どんな顔をしているのだろうか。

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