対面
1.2分のときが流れ、ゆっくりと起き上がる。
彼女は目を瞑って固まっている。
急いで彼女の手を引き、その場から離れようとする。
「え?睦月さ」
「いいから!」
手を引き走りながらもまだ頭は追いついていない。
しかし、ここは逃げるべきだと考えた。
今のは…?彼女が…?
信じられない光景を振り切るように走る。
大通りを超えて小道に入り、一度止まる。
息を切らしながら、それでも矢継ぎ早に質問をする。
「君は誰なんだ、何故あれができる。君がやったのか!」
一瞬きょとんとしたが、すぐ笑顔になり答える。
「あれは私の力ですよー。なぜかはわかりません。」
これで睦月さんを救えましたかねと笑う彼女をみて血の気が引く。
俺は、とんでもない物を前にしているのではないのか。
「とりあえず!」
彼女が手を合わせる。
自分は一歩後ずさる。
「お家に帰ってもいいですか?」
「お邪魔しまーす。」
結局家にまた招き入れてしまった。
先ほどの惨状の恐ろしさは脳裏に浮かび、緊張が走る。
「さっきはなんで、あんなことを」
椅子に誘導して座らせ、自分はベッドに腰掛ける
移動中に聞けなかったことを聞く。
彼女はどこか誇らしげに答える
「睦月さんをいじめる職場だから壊そうと思ったんです。」
あんな辛い場所、残しておく必要なんてないと続ける。
しばしの沈黙の後、自分が放った一言は思ったよりも間抜けだった。
「俺のためにやってくれたんですか。」
彼女が笑う。
「そうです!」
「そうですか…」
あまりにも恐ろしく、現実味がなく、人と話してるとは思えなかった。
続けて言葉を紡ごうとした時、ベッドに置いた携帯がブーブーと震え着信が来る。
きっと上司からだろう
慌てて取ろうとしたところ彼女腕をつかまれて止められる。
「睦月さん。あなたはこれ以上苦しまなくていいんです。」
彼女が携帯をスワイプして震えを止める。
「言ってましたよね。毎日毎日なんのために生きてるのかわらない。誰か救ってくれと。」
「私はあなたを救いにきました。私は、あなたに死んでほしくないです。」
自分が後ろにのけぞると彼女は俯いて続ける。
「あなたが悲しい思いをしているのは私も辛いです。昨日だって死んじゃうんじゃないかって、初めてあったのに、
もう会えないんじゃないかって心配で。」
途中からは涙声に変わっていく。
「だから、お願いします。そばに居させてください。」
懇願するように、涙声で一言一言噛み締めるように話す。
その姿を前に自分は狼狽しながらも彼女に近づきティシュを渡し、背中を軽くさする。
「だから、ずっと外にいてくれたんですね。」
ありがとうございますと感謝を伝える。
それでも手は震え、シャツは汗で湿っていた。
「睦月さん。睦月あおいさん。好き。好きです。」
泣きはらした顔を上げてこちらを見る。
「私と生きてくれませんか。」
非現実な能力を目の当たりにし、彼女はきっと人間ではないと感じ取った。
しかし、彼女は本当に自分のことを思ってくれているではないのだろうか。
俺はその仮説を信じるしかなかった。
選択肢は一つしかない。
俺はゆっくりと首を縦に振る。
美人は泣いても笑っても美人なんだなと思った。