ヤラ場
俺たち2人がたどり着いたのはどこかの港町の波止場。
幸いにも他の地へとたどり着いたようだ。
まだ日が高く、ちょうど大型の蒸気船も停泊していた。
俺たちは手早く船を着けると旅客に紛れ込んで早足で路地へと向かった。
「なんとか脱出できたか?」
「みたいですね。腹減りました」
「そうだな・・・・・・」
そうは言うが、俺たちは金になるようなものは持ってない。
しかし、大っぴらに働くこともできない身だ。
と、なれば、だ。
「盗みでもしますか?」
「どうだろう。できれば顔を覚えられるリスクがあるからやりたくねぇかな」
「でも僕たちの状態で食べ物を手に入れるのは難しくないですか? ここは飽食の日本じゃないんですよ?」
トニーの言うことはもっともで、否定はしたものの他に案があるわけではなかった。
「日が暮れる前には決める」
そういってごまかす。先延ばしにした。
できるだけ目立たない通りを歩くことしばらく。
「ヤラ場、ですって」
「ヤラってなんだ?」
まあまあの広さがありそうなレンガの建物だ。
おそらくこの街は海辺の観光地。富裕層ばかりのはず。
しかし、この場所だけ出入りする人間の印象が全く違い、少し小汚い服の人間もいる。
(俺たちでもなんとか入れそうか? 飲食店ではなさそうなんだよな)
意を決して木製のドアを開けてみた。
中の左手側には飲食店のカウンター。
そして中央から右側には真四角の4人掛けのテーブルに椅子が複数おいてあり、そこに掛けた人たちはなにやら集中していた。
どこかで感じたことのある気配だ。
(わかった。雀荘だ)
一番奥に待ち合わせ用なのか、ソファがあったので2人で腰かけ、眺める。
親指大の牌を山からとって、同じ絵柄を3つ揃えるようだ。
手持ちは9枚。10種類かそこらの色とりどりの絵柄が掘られている。
木製の牌裏。牌は象牙か何かでできているようで、白牌もあった。
「これ、絵合わせ・・・・・・ド〇ジャラじゃないですか?」
「うん? トイトイ麻雀じゃねーのか?」
おそらく違う名称だけど知っているルールは同じようだ。
あがり時に金と思われるものをやり取りしているので、1発目に負けなきゃ平気。
(鉄砲で飛び込んで負けたら海に放り込まれかねんが・・・・・・)
ここは勝負するしかない。
今後のことを考えて、多少危険は冒しても安全に使える金が必要だった。
「終わりかい。・・・・・・兄ちゃんたち、どっちか入るかい?」
ちょうど卓の1人が抜けた。
するとそこの卓に座った、ヌシのようなカエル顔の爺さんに声を掛けられた。
メンツは爺さんにベレー帽、白髪だ。
「・・・・・・入れてくれ」
俺は返事した。
すると小声でトニーに言われる。
「頑張って」
あいつもどうやらルールを知っている。
サインも決めていないが、カベをやってくれるようだった。