飛ぶ馬券
「サムって実は馬券で生きていけます?」
「どうかな? 仕事暇なときに中継見てて、なんとなくわかるけども。大きな額賭けるまではいかねぇな」
「いくらぐらい? 10万円とか?」
「買っても単勝1万くらいまでしか賭けたことねぇ。数字が増減するだけじゃあ面白くないから、馬券も現地でしか買わなかったし」
6レース目。
『凄まじい逃げだ! 完全な一人旅! 圧倒的リードで1番が勝利!』
5馬身以上の差をつけゴール。
しかし、単勝オッズも1.0倍。持ち時計から明らかな差があって、このレースが通過点なのは明らかだったのだ。
「きたなぁ! 複勝7倍が!!」
1着は当然の結果。
俺は3着に10番人気の馬が来ると踏んでいた。
そこで複勝を1点、10ゴールド入れていた。
見事的中。
今日は既に100ゴールド以上プラス。賭け額からすれば大勝ちと言ってよい範疇だろう。
「トニー、成績はどうだい?」
「ちょっとマイナス・・・・・・10ゴールドくらい」
7レース目。
「ついに来たな。キャビンってやつがよ」
3番、ナジン号に騎乗するのはキャビン騎手。
複勝圏内なら確実という凄腕らしい。
初日に見たときも2着に入っていた。
「牡馬、4歳、人気は2番人気。時計もこの中なら2番。差し、追い込みが得意な馬か・・・・・・1800m」
後方の脚質は外から追い抜くのがセオリーだ。
距離にもよるが、初めから外側に居たほうがよい場合も少なくない。
「・・・・・・よし。買ってくるわ」
3連複軸2頭、5頭流し。
おそらく、1、2番人気の馬は確実に3着以内に来る。
この場合、本来買うべきは複勝、ワイドだ。
しかし、複勝のオッズは少額かけても低すぎ、ワイドはそもそもない。
こうなると買うべきはもっともワイドに近く、配当も高くなる3連複だ。
(1、2、3番人気の組み合わせはあえて外す。これが来てもガミだ)
ガミというのは、当たっているが、配当が賭け金に届いていない、回収失敗のことだ。
これを回避するために、賭け額をそこに増やすという手もあるが、今回は賭けの上限が決まっているので、切った。
「ただいま。行ってきていいぞ」
「では」
トニーと入れ替わる。
『出遅れたのは4番ランスター。他はスムーズに出ました』
魔法による拡声放送が響く。
(出足は順調。後ろから5番目、中段の位置取り。外に出すのに完璧だ)
『3番ナジン、仕掛けていった! それを見て他の馬もついて行く!』
当然、自分のタイミングで仕掛けたナジン、もといキャビン騎手が最も有利。
『かわすか!? どうだ!? 並んでゴール! 魔石による判定になります! 順位確定までお待ちください!』
「微妙だなぁ」
「3番ナジン、7番モハード、3着はギリギリ1番人気のダムカンセリアじゃあないですか?」
「どうも最後差されてるように見えたんだよなぁ・・・・・・」
3-7-1。
一番人気の6番ダムカンセリアは馬券外だった。
「やっぱりなぁ。俺は外れた」
「僕は単勝当たりですね。オッズは2倍くらいですけど」
「ここで1番人気が飛ぶかぁ・・・・・・」
競馬ではよくあることだが、悔しい。非常に悔しい。
こうなったとき、騎手に気持ちをぶつけたくなる、ヤジを飛ばす人間の気分はわかる。




