海竜
「2人はどこから?」
「どこからっつうと、ガードルードっていう方からだな。ロゲンさんたちは?」
「チノイという町から。オリエンテという国を目指しています」
地図をめくってみても、そのような場所は見当たらなかった。
「もっと先ですな。申し訳ないが、私の持っている地図は見せてはならないものなので、このずっと先、ということだけ」
ロゲンは、指で俺の持っている地図の先を指す。
「そんな遠い場所に何をしに?」
「それも秘密なんですな。知られると、あなたたちにも危険が及びかねない。私たちがここにいることも忘れていただければ」
「ふうん。大変なんだな」
「そう。大変なんですな」
ゴロゴロとタイヤの回る心地が尻へと伝わって、早2時間。
大きな橋はまだまだ続く。
「海竜だ! 一気に抜けるからしっかり捕まってな!!」
(海竜?)
御者の声に反応し、ガラスの窓の外を見ると、体長10mはあろうかという蛇のような魚影があった。
「あれは何が危ないんだ!?」
「尻尾で波を起こして、馬車を海に落として食うんだよ!!」
速度を不規則に変える多少乱暴な運転が発生し、馬車は揺れる揺れる。
そうして、隣のフードの人物が俺の方に倒れる。
フードも外れ、中の顔があらわになった。
「大丈夫かい?」
「はい。問題ないです」
外れたフードの中は、やはり若い女性だった。
銀の髪に赤い瞳。
「あっぶねぇ。後輪持ってかれそうだったぞ」
御者に無茶な運転について文句を叫ぶ。
「あそこまで行けば安全だ!」
頑丈そうな石だかレンガだかで周囲を囲われた休憩スペースがあった。
サービスエリアか何か?
無事、その場所へとたどり着き、馬車を降りてトイレへ。
「海へ垂れ流しかい。まあそりゃそうだわな」
流石に女性用トイレを見ることはできないが、真下は海なので相当スゴイ状態で用を足すことになっているだろう。
「ここでヤツがあきらめるのを待って出発だ」
水が入るのを防ぐためだろう、屋根がきっちりあって風通しが悪すぎる。火を使うのは危険そうだ。
幸い、いつもの光る石がそこかしこにあるので暗くはない。
乾パンを齧って、瓶の水を飲んで休憩。
もちろん馬にも水と餌はある。
「なあ、このバケツは?」
ロープのついたバケツと、なにやら独特の香りのする真ん中に窪みのある袋に壺。
「そいつは、ろ過機。海水を綺麗にして飲めるようにする緊急用のやつだ」
「ああ、海竜に馬車だけ持ってかれて助かったらこれで凌げってことね」
「そういうことだ」
あ、馬がボロをしてしまった。
「俺が様子見がてら投げてくらぁ」
馬車に積んであったスコップで掬い、外まで持っていき、海へと投げる。
「くぁー、こういうとき煙草吸いて~」
伸びをして、デカイ独り言を海へつぶやきながら、海竜を探す。
(いない、か?)
見渡した感じ、あきらめてどこかへ去っていったようだ。
俺はみんなが集まっている場所へ戻り、
「おそらくどこかへ行った。影は見当たらなかった」
「ようし、じゃあ出発! 次の休憩地点まで、また2時間。ちゃんとトイレを済ませてな!」
念のためもう1度、用を足してから出発。




