風呂
「風呂に浸かりたいねぇ」
異世界へと来てから湯舟に浸かっていない。
なんならお湯のシャワーもほぼない。
濡れタオルで体を拭くのもできたりできなかったり。
そもそも比較的寒い地域なのだから温泉的な体を温めるものがあってもおかしくなさそうだが・・・・・・。
「コレ、温泉マークじゃないですか? ちょっと遠いですけど、道中ですよ」
看板には湯気っぽいマークに、距離が書かれていた。
歩きではだいぶ遠い。
「のどかだなぁ」
「ですねぇ」
現在、俺たちは川の上流から小さな手漕ぎの船に乗って下流の位置にある村へと移動している。
移動距離があまりにも長いため船を使うことにしたのだ。
俺たち以外に、船の前と後ろに1人ずつ、漕ぎ手のおっさんがいる。
「でっけぇトカゲだ」
体長1mはあるだろうトカゲが中洲に居た。
すると、ドボンと川へと潜り、魚をくわえて陸地へと戻っていく。
「弱肉強食か・・・・・・」
そんなことをつぶやいて、森へと消えて行くトカゲを見ていた。
『ぎゃおぉおおお』
木の上で、木の葉に擬態していた巨大な鳥に魚もろともトカゲは啄まれ、上空へと去っていった。
「・・・・・・怖」
「ちょっと、船頭さん。僕たちは安全なんでしょうね?」
「平気、平気。あいつらは人間には手をださんから」
地元の人がそういうのだから問題ないのだろう。
「ほい、ありがとう。もし川を上るときは、そっちの村から馬車がでるから」
「親切にどうも」
料金を支払って、別れる。
川を下った先、そこはもう河口。
目の前は海のようだった。
俺たちが船を降りた場所の周りは岩場。
海と川の境だ。
「ん~。涼しいけど、暑い? よくわからんな」
上半身は海風があたり、涼しい。
しかし、下半身部分、地面からでる熱が暑いのか、結果的によくわからない感じだった。
「砂蒸し風呂ですって」
「へぇ。鹿児島だかにもあったよな」
岩場から少し歩くと、砂浜があった。
浜辺にはいくつものテントが設置されていた。
ぽつんと立っているレンガでできた小屋の前、看板にそう書いてあるらしい。
「入ってみっか」
ということで砂風呂へ。
レンガ小屋は受付だけで、浜辺にあるテントのところが砂風呂らしく、そこへ案内された。
「はい、こちらに着替えていただいて。アタシは向こう見てますんで」
薄手のパンツを手渡される。
ちゃっと着替えて、地面に横たわる。
俺たちを砂に埋めてくれるのは、おばちゃんだった。
「埋めますね~」
枕に頭を預けて、体にはどんどんと砂を被されていく。




