サイコロの振り方
「僕も色々やってはみたいんですけどね。ヤラに関してはサイコロが鬼門でして」
「そうなんだけどねぇ。サイコロには"振り方"があるんよ」
いつも持っている行先地を決める用のサイコロを出す。
もう飲食店の中なので、技術を披露しても問題はない。
「これが捻り賽。絶対上の出目が出る。ただ、よく見てれば絶対おかしいから、指摘されたらおしまい」
俺とシュウジは次々とサイコロの振り方をトニーに教えていく。
プロ同士の戦いならやって当然だから。
やりかたさえ知っていれば、手振りでの出目くらい自由自在だ。
もちろん一般人に指摘されたら止める。それは当然。
もっと詳しく喋れって? 色んな人に怒られるから秘密だ秘密。
「ちょっと待ってください!? サム、あなた行先を選んでいたのでは?」
「いいや? 空中に放り投げたサイコロの出目は無理だよ。こうやって卓で転がす程度ならまだしも」
「そういえば・・・・・・毎回律儀にちゃんと放り投げてましたね」
そうして旅の話をシュウジに聞かせて盛り上がった。
夜中近くまで話を続け、ついに解散のときが来てしまった。
「兄さんたち、俺はこのサイプレスマウントにしばらくいるよ。女と結婚でもしたら田舎に引っ込むかもしれないが、それまではいる。何か困ったら話聞くぜ」
「まあ俺たちは渡り鳥だからな。戻ってくることがあればヤラ場に顔出すよ」
シュウジと別れて宿。
「シュウジさん、見かけによらず義理堅くていい人ですねぇ」
「ああいう昔ながらの博打うちっていうのはもう見ないねぇ。日本ではパチンコだのっていうのは俺もさんざんやったけど、みんな群れて期待値がどうのって、面白くねぇ」
喋っている間にトニーは酔いが回ったのか、力尽きたらしく寝息が聞こえるようになっていた。
そして、翌朝。
「さあ、金も増えたしどこでもいこうぜ。遠いとこ書いてくれや」
次の目的地も当然サイコロ。
しかし、トニーが振ると言って聞かなかった。
おそらく、俺の言葉が信用できないのだろう。出目を操れると思っている。
「ほーい! ・・・・・・6!!」
「おいおい、ヤバイんじゃないのかこの出目」
俺たちのサイコロ旅はまだまだ続く!




