作戦会議
「俺たちが安定して勝つためにサインを覚えてもらいたい」
「ああ。コンビ打ちの醍醐味だよな!」
そこからサインの出し方などを打ち合わせた。
欲しい牌を俺に鳴かせたり、安い手に差し込んで流すのはシュウジ。
俺はアガるのを優先する役だ。シュウジがトス役。
シュウジの積み込みはとてもうまく、早々失敗しないらしい。
(これは大体どっちがどっちやるかで揉めるんだけどな。上手いシュウジがトスしてくれるんならありがてぇや)
アガる方が楽しいに決まっているので、トス役をやりたいやつなどいない。
その点でシュウジは本物のプロだ。金になるなら面白くない仕事もする。
ギャンブルで食うのに、この姿勢が一番大事だ。結果的に金が入れば、自分は勝負に負けてもいい。
「それでなんだが・・・・・・役満はあがらないで欲しい」
「そうだよな。客のやる気が落ちるのはよくねぇもんな」
「そう。カモは延々絞り取る方がいいからな。いい気にさせて、ちょっとずつ刈ればいい」
「最終日はいいかい?」
「それは構わない。2、3回あがって連れの人と祝勝会でもしよう」
翌日。右手の5指に指輪をした、鼻ピアスが相手になった。
これは、イカサマ師だ。
間違いない。指輪で牌を固定して入れ替えるやつ。
昔、マンガで見たやつと同じ手口。
指摘して、失敗すると無法になる。
「すまねぇ。急に腹が痛い、ちょっと待ってくれないか? 俺の親は等倍でいい」
「ならいいぜ」
「じゃあ俺も小便だ」
シュウジが親を蹴った。作戦会議だ。
親がなくなるのは痛いが、代走を入れられるのも困る。
トイレは安全地帯。これは絶対だ。
「あれはよ、手の中で多牌して入れ替えするやつだよな?」
「そうだ。1発でもバレたら出禁だが、いるってことは手ごわいな」
今までバレたことがない、あるいは今日が初めての店ということになる。
多牌のイカサマは攻防一体の手。
崩すのは難しい。
「なるだけバラバラの手になるように仕込むが、相手も警戒してるだろう」
「どうすんだ?」
「・・・・・・実際どうしようもない。だから、もう一人の全然関係ない人にあがらせようと思う」
卓を囲んでいる人間はもう一人いる。
特に特徴のないひょろい中年。
こいつがプロの可能性は低く見える。




