釣れた
(流石にあれは・・・・・・真似できないな)
去ってゆく、ご機嫌そうに揺れる尻尾を眺めながら、次の人を探す。
「すいません! トイレは、トイレは!?」
「あのテントの横の小屋です」
道を聞かれた。
よほど余裕がなかったのか、男性はすごい形相で駆けていった。
(しかし、湖の際に柵はないけど、公衆トイレはあるんだよなぁ)
ちょうど釣りを始める前に用を足していたので知っていた。
そして、汚物が湖に出ている感じはないし、しっかり管理されている。
男女共用とはいえ、あるだけすごい。
(あの城っぽいのが領主なんかな?)
遠くに見える、湖の横の崖に建っている城。
無駄にとんがっていて、いかにも有権者の家といった佇まい。
そして、付近に目を戻すと、
(結局はヤル気と金だよなぁ)
金髪でキノコみたいな髪型、小太り少年がリールを回している。
ほかの人間はリールなど使っていないので、私物。
そして勝手なイメージだが、裕福なのだろう。
釣果も上々。
きちんと針も自分で外しているし、現代のボンボンとは違う。
「結論、技術よりもヤル気」
戻って、トニーに報告した。
「どういうことですか?」
「まあ有体に言うと、わかんなかったわ。私物持ち込んでるくらいの違いかな」
「そうですか。あ、取られてる」
トニーが竿をあげると、針についていた小魚は無くなっていた。
「じゃあ技術面ではないんですねぇ」
「そうとも言い切れないけど、アレはなあ。例外だよなぁ」
トニーに猫耳の少女がやっていたことを話す。
「へぇ。それは真似しようがないですねぇ」
「水中のなんかがわかるみたいだけどもよ」
「僕たちもひとまず、場所を変えましょうか」
結局、釣れたのは歯の生えた小魚1匹。リリース済み。
道具を持って場所移動。
今度は、少し地面がせり出していて、手前側が影になっているところ。
崩れたり、少々危険かもしれない。
(どっかで曇ってるほうが釣れるって聞いた気がするんだよな)
引っかかって、糸が切れるリスクもあるが、とりあえず試してみる。
「トニー、お前はそっち側な」
「はい」
沈めてすぐにアタリが来た。
「おお。鱒だ」
詳しい種類はわからないが、釣り堀でよく見る魚だ。
「しかも20センチ、もうちょっとあるか?」
手を広げて、大体の大きさを計る。




