奴隷
「臭うからそこで水浴びをしろ」
作業を終え、幾日かしたころ。
男に道中にあった川で体を洗えと指示される。
川は凍ってはいないものの、激烈に低い温度なのは間違いない。
「いや、死ぬでしょ」
そう言った時点で体に激痛が走り、地面でのたうちまわる俺。
男たちはあきれ顔で見ていた。
なぜ逆らったのかと。
痛みが引いてきて、仕方なく俺は川へと服を脱いで入る。
(死ぬぅ。死ぬよぉ)
おそらく唇は真っ青だ。
しかし、なんとか死なずに水浴びを終える。
体を手で拭って、水滴を落としてから服を着る。
「・・・・・・本当に丈夫なんだな」
そう言って男たちは顔を見合わせていた。
数日後、延々と続いた収穫作業をついに終わらせた。
ひと段落させた褒美なのか、夕食にはハムが数切れついていた。
しばらくぶりに食べた塩気のある肉はとても美味しかった。
そして就寝。翌朝、
「今日からは他の事をやってもらう」
そう告げられ、いつものとおりに首に枷を嵌められる。
もう慣れたもので自分から首を差し出した。
無駄に痛い思いをするくらいなら従っていたほうがマシだ。
「これを山へと捨てに行く。捨てる穴もお前が掘れ」
広場にずらっと30個ほど並んでいるのはとてつもない悪臭がする壺。
便を処分するということらしい。
いつの間にか男たちは鼻に詰め物をしている。
「持て」
しぶしぶ俺は壺を持ち、男たちの指示する山中へと運んだ。
そして壺を置いて、渡されたスコップで穴を掘り、できた穴に壺の中身をぶちこんでいく。
(遠くに海か? なんかキラキラしてんぞ)
作業している最中、青い水平線らしきものが見える。
今いる山の反対側には海がありそうだ。
もし逃げることができたのならば海がいいだろう。
海の先までは簡単に追って来れるまい。
「何を考えてる? 作業を進めろ」
男にすごまれ、作業にもどる。
日が傾いてきたころには、すべての壺の中身は山へと入った。
「壺を広場へ戻せ」
広場へと戻せばいいらしい。
奴隷である俺が各家庭に戻せない理由でもあるのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、山から1つずつ壺を広場へと戻す。
「今日の作業も終わりだ」
また牢屋へと戻され、粗末な飯を食らい、寝た。