馬車
「尻が、痛い」
今日はダイスで出た目が、長距離を馬車で移動、だったので生まれて初めて馬車というものに乗ってみた。
「尻は痛いし、揺れるし、遅いし、金はかかるし、疲れない以外に利点があんまないな」
「バスや電車並みにポピュラーな移動手段ですから、慣れないとキツイですけどね」
小規模な町へ着いた。
日もだいぶ前に暮れ、夜も遅い時間。
宿だけ取って、食事の場所を探しに向かった。
そして、俺が見つけたのはダーツバーのような店。
ジャッジの店員が横について、対戦相手とサシで勝負するスタイルのようだった。
「賭けダーツか」
しかし、現代のルールとは違うらしく、円には点数が5段階記載されている。
そして立ち位置から的がずいぶんと遠い。
手首のスナップだけでは到底届かない距離だ。
安定して中央に投げ込むのは至難の業だろう。
「ふふん。こんなの私なら楽勝よ♪」
ちょうど店に入ってきた、耳の長い細身の女性がそう言った。
目を引く明るい緑の髪の毛に、大きな栗色の瞳、整った顔立ちだった。
俺たち転生者並みの顔立ちだ。
「エルフのねえちゃん。ウチはエルフ禁止だ」
「なんでよ!」
「そりゃあんたらは目を瞑ってても的に当たるやつがいるだろうが。だからできるかどうか関係なくエルフはダメだ」
「そう・・・・・・じゃあ見てるだけなら?」
「・・・・・・それなら構わんよ」
入口で店員とやり取りをしていたエルフの女性は、俺たちの方へやってくる。
「ねぇ、あなたたち、私の代わりに投げてくれないかしら?」
「構わねぇけどよ。俺たち初心者だぜ」
「それでもいいわよ。そっちのアナタが投げてちょうだい」
女性はトニーを指さして言う。
「アナタならいいわ。人間相手なら誰にでも勝てるはず。目が違う」
「どうします?」
「トニー、お前が決めな」
「それなら遅い時間に、女性が1人でココに来た理由を聞かせてください」
「仲間にダーツで酒代ひと稼ぎしてくるって言っちゃったから、手ぶらで帰るわけにはいかないのよ」
「・・・・・・わかりました。僕がやります」
「任せた。そんで君、名前くらい教えてくれねぇか?」
「いいわよ、私はリーチェ。あんたたちは?」
「俺がサム。こいつがトニー」




